横になっていた尼君が起き上がって言った。
身を変へて 一人帰れる 山里に
聞きしに似たる 松風ぞ吹く
女《むすめ》が言った。
ふるさとに 見し世の友を 恋ひわびて
さへづることを 誰《たれ》か分くらん
こんなふうにはかながって 暮らしていた数日ののちに、
以前にもまして逢いがたい苦しさを切に感じる源氏は、
人目もはばからずに大井へ出かけることにした。
夫人にはまだ明石の上京したことは言ってなかったから、
ほかから耳にはいっては気まずいことになると思って、
源氏は女房を使いにして言わせた。
「桂《かつら》に私が行って
指図をしてやらねばならないことがあるのですが、
それをそのままにして長くなっています。
それに京へ来たら訪ねようという約束のしてある人も
その近くへ上って来ているのですから、
済まない気がしますから、そこへも行ってやります。
嵯峨野《さがの》の御堂《みどう》に
何もそろっていない所にいらっしゃる仏様へも
御挨拶に寄りますから二、三日は帰らないでしょう」
🪷孤影written ハシマミ🪷
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