2023-05-28から1日間の記事一覧
そばへ寄って逢えなかった間の話など少ししてから、 「たくさん話はたまっていますから、 ゆっくりと聞かせてあげたいのだけれど、 私は今日まで忌《いみ》にこもっていた人なのだから、 気味が悪いでしょう。 あちらで休息することにしてまた来ましょう。 …
二条の院はどの御殿もきれいに掃除ができていて、 男女が主人の帰りを待ちうけていた。 身分のある女房も今日は皆そろって出ていた。 華やかな服装をして きれいに装っているこの女房たちを見た瞬間に 源氏は、 気をめいらせはてた女房が肩を連ねていた、 左…
中宮も命婦《みょうぶ》を取り次ぎにしてお言葉があった。 「大きな打撃をお受けになったあなたですから、 時がたちましても なかなかお悲しみはゆるくなるようなこともないでしょう」 「人生の無常はもうこれまでに いろいろなことで教訓されて参った私でご…
この夕方の家の中の光景は寒気がするほど悲しいものであった。 若い女房たちはあちらこちらにかたまって、 それはまた自身たちの悲しみを語り合っていた。 「殿様がおっしゃいますようにして、 若君にお仕えして、 私はそれを悲しい慰めにしようと思っていま…
亡き魂《たま》ぞ いとど悲しき 寝し床《とこ》の あくがれがたき 心ならひに と書いてある。 「鴛鴦瓦冷霜花重《ゑんあうかはらにひえてさうくわおもし》」 白居易 長恨歌より と書いた所にはこう書かれてある。 君なくて 塵《ちり》積もりぬる 床なつの 露…
「つまらない忖度《そんたく》をして 悲しがる女房たちですね。 ただ今のお言葉のように、 私はどんなことも 自分の信頼する妻は許してくれるものと 暢気《のんき》に思っておりまして、 わがままに外を遊びまわりまして 御無沙汰をするようなこともありまし…
「それではもうお出かけなさいませ。 時雨《しぐれ》があとからあとから 追っかけて来るようですから、 せめて暮れないうちにおいでになるがよい」 と大臣は勧めた。 源氏が座敷の中を見まわすと 几帳《きちょう》の後ろとか、 襖子《からかみ》の向こうとか…