「つまらない忖度《そんたく》をして
悲しがる女房たちですね。
ただ今のお言葉のように、
私はどんなことも
自分の信頼する妻は許してくれるものと
暢気《のんき》に思っておりまして、
わがままに外を遊びまわりまして
御無沙汰をするようなこともありましたが、
もう私をかばってくれる妻が
いなくなったのですから
私は暢気な心などを持っていられるわけもありません。
すぐにまた御訪問をしましょう」
と言って、
出て行く源氏を見送ったあとで、
大臣は今日まで源氏の住んでいた座敷、
かつては娘夫婦の暮らした所へはいって行った。
物の置き所も、してある室内の装飾も、
以前と何一つ変わっていないが、
はなはだしく空虚なものに思われた。
帳台の前には硯《すずり》などが出ていて、
むだ書きをした紙などもあった。
涙をしいて払って、
目をみはるようにして大臣はそれを取って読んでいた。
若い女房たちは悲しんでいながらも
おかしがった。
古い詩歌がたくさん書かれてある。
草書《そうしょ》もある、楷書《かいしょ》もある。
「上手《じょうず》な字だ」
歎息《たんそく》をしたあとで、
大臣はじっと空間をながめて
物思わしいふうをしていた。
源氏が婿でなくなったことが老大臣には
惜しんでも惜しんでも足りなく思えるらしい。
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💠第九帖 葵 あおい💠
桐壺帝が譲位し、源氏の兄の朱雀帝が即位する。
藤壺中宮の若宮が東宮となり、
源氏は東宮の後見人となる。
また、六条御息所と前東宮の娘(後の秋好中宮)が
斎宮となった。
賀茂祭の御禊(賀茂斎院が加茂川の河原で禊する)の日、
源氏も供奉のため参列する。
その姿を見ようと身分を隠して
見物していた六条御息所の一行は、
同じくその当時懐妊して体調が悪く気晴らしに見物に
来ていた源氏の正妻・葵の上の一行と、
見物の場所をめぐっての車争いを起こす。
葵の上の一行の権勢にまかせた乱暴によって
六条御息所の牛車は破損、
御息所は見物人であふれる一条大路で恥をかかされてしまう。
大臣の娘で元東宮妃である御息所にとってこれは耐え難い屈辱で、
彼女は葵の上を深く恨んだ。役目を終え、左大臣邸に行った源氏は、
事の一部始終を聞かされ驚愕。
御息所の屋敷へ謝罪に向かうが、門前払いされた。
勅使の役目を終え、久々の休日。
源氏は紫の君を伴い、賀茂祭へ。
相変わらずの混雑振りに、
惟光は牛車を停める場所を探すのに難儀していたが、
そこへ手招きする別の牛車が。
場所を譲ってくれた礼を言おうと、
顔を覗き込んだら、車の主は源典侍だった。
がっくりする源氏。
その後葵の上は、病の床についてしまう。
それは六条御息所の生霊の仕業だった。
源氏も苦しむ葵の上に付き添ったが、
看病中に御息所の生霊を目撃してしまい愕然とする。
8月の中ごろに葵の上は難産のすえ
男子(夕霧)を出産するが、
数日後の秋の司召の夜に容体が急変し亡くなった。
同じ頃。御息所は、
いく度髪を洗っても衣を変えても、
自身の体に染み付いた魔除けの芥子の香りが消えないことに、
愕然としていた。
女房からの知らせで、葵の上の訃報を知り、青ざめる。
火葬と葬儀は8月20日過ぎに行われた。
葵の上の四十九日が済んだ後、
源氏は夕霧の養育を左大臣家に託した。
源氏は二条院に戻り、
美しく成長した紫の君と密かに結婚する。
突然のことに紫の上は衝撃を受けて
すっかりふさぎこみ口をきこうともしなかったが、
源氏はこれを機に彼女の素性を父兵部卿宮と
世間に公表することにした。
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