五日には馬場殿へ出るついでにまた玉鬘を源氏は訪《たず》ねた。
「どうでしたか。宮はずっとおそくまでおいでになりましたか。
際限なく宮を接近おさせしないようにしましょう。
危険性のある方だからね。
力で恋人を征服しようとしない人は少ないからね」
などと宮のことも いかせも殺しもしながら訓戒めいたことを言っている源氏は、
いつもそうであるが、若々しく美しかった。
色も光沢《つや》もきれいな服の上に薄物の直衣《のうし》を
ありなしに重ねているのなども、
源氏が着ていると人間の手で染め織りされたものとは見えない。
物思いがなかったなら、
源氏の美は目をよろこばせることであろうと玉鬘は思った。
兵部卿《ひょうぶきょう》の宮からお手紙が来た。
白い薄様《うすよう》によい字が書いてある。
見て美しいが筆者が書いてしまえばただそれだけになることである。
今日《けふ》さへや引く人もなき水《み》隠れに生《お》ふるあやめのねのみ泣かれん
長さが記録になるほどの菖蒲《しょうぶ》の根に結びつけられて来たのである。
「ぜひ今日はお返事をなさい」
などと勧めておいて源氏は行ってしまった。
女房たちもぜひと言うので玉鬘自身もどういうわけもなく書く気になっていた。
あらはれていとど浅くも見ゆるかなあやめもわかず泣かれけるねの
少女《おとめ》らしく。
とだけほのかに書かれたらしい。
字にもう少し重厚な気が添えたいと
芸術家的な好みを持っておいでになる宮はお思いになったようであった。
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