2024-07-12から1日間の記事一覧
姫君は母の顔を覚えていなかった。 ただ漠然《ばくぜん》と親というものの面影を 今日《きょう》まで心に作って来ているだけであったが、 こうした苦難に身を置いては、 いっそう親というものの恋しさが切実に感ぜられるのであった。 ようやく椿市《つばいち…
「神仏のお力にすがれば きっと望みの所へ導いてくださるでしょうから、 お詣《まい》りをなさるがいいと思います。 ここから近い八幡《やわた》の宮は九州の松浦、 箱崎《はこざき》と同じ神様なのですから、 あちらをお立ちになる時、お立てになった願もあ…
九条に昔知っていた人の残っていたのを捜し出して、 九州の人たちは足どまりにした。 ここは京の中ではあるが はかばかしい人の住んでいる所でもない町である。 外で働く女や商人の多い町の中で、 悲しい心を抱いて暮らしていたが、 秋になるといっそう物事…