九条に昔知っていた人の残っていたのを捜し出して、
九州の人たちは足どまりにした。
ここは京の中ではあるが
はかばかしい人の住んでいる所でもない町である。
外で働く女や商人の多い町の中で、
悲しい心を抱いて暮らしていたが、
秋になるといっそう物事が身に沁んで思われて過去からも、
未来からも暗い影ばかりが投げられる気がした。
信頼されている豊後介も、
京では水鳥が陸へ上がったようなもので、
職を求める手蔓《てづる》も知らないのであった。
今さら肥前へ帰るのも恥ずかしくてできないことであった。
思慮の足りなかったことを豊後介は後悔するばかりであるが、
つれて来た郎党も何かの口実を作って一人去り二人去り、
九州へ逃げて帰る者ばかりであった。
無力な失職者になっている長男に同情したようなことを
母のおとどが言うと、
「私などのことは何でもありません。
姫君を護《まも》っていることができれば、
自分の郎党などは一人もなくなって もいいのですよ。
どんなに自分らが強力な豪族になったっても、
姫君をああした野蛮な連中に取られてしまえば、
精神的に死んでしまったのも同然ですよ」
と豊後介は慰めるのであった。
💐🎼緑の渓流 written by 天野七祈
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