2024-06-03から1日間の記事一覧
高倉宮が法輪院で休まれている頃、 京の街は宮の謀叛《むほん》の噂でもちきっていた。 戦乱はもはや免れまい、 あわてて逃げ仕度にかかる者さえいた。 と共に一体何が宮を 謀叛に走らせたのかというせんさくが囁き交された。 黒幕とも目される源三位頼政の…
「男性というものは、どんな低い身分の人だって、 心持ちだけは高く持つものです。 あまりめいったそうしたふうは見せないようになさいよ。 あなたがそんなに 思い込むほどの価値のあるものはないではないか」 「それは別にないのですが、 六位だと人が軽蔑…
大宮は尼姿になっておいでになるがまだお美しかったし、 そのほかどこでこの人の見るのも 相当な容貌が集められている女房たちであったから、 女の顔は皆きれいなものであると思っていたのが、 若い時から美しい人でなかった花散里が、 女の盛りも過ぎて衰え…
一方、女房装束に身をやつし、 市女笠《いちめがさ》で顔をかくして 三井寺へ落ち行く高倉宮は、高倉小路を北にとり、 更に近衛大路を東にすすんだ。 月を映してさわやかに流れる賀茂川を渡れば、 もう如意《にょい》山である。 追われる身の宮は踏みなれぬ…