心持ちだけは高く持つものです。
あまりめいったそうしたふうは見せないようになさいよ。
あなたがそんなに
思い込むほどの価値のあるものはないではないか」
「それは別にないのですが、
六位だと人が軽蔑《けいべつ》をしますから、
それはしばらくの間のことだとは知っていますが、
御所へ行くのも気がそれで進まないのです。
お祖父《じい》様がおいでになったら、
戯談《じょうだん》にでも
人は私を軽蔑なんかしないでしょう。
ほんとうのお父様ですが、私をお扱いになるのは、
形式的に重くしていらっしゃるとしか思われません。
二条の院などで私は家族の一人として
親しませてもらうようなことは絶対にできません。
東の院でだけ私はあの方の子らしくしていただけます。
西の対《たい》のお母様だけは優しくしてくださいます。
もう一人私にほんとうのお母様があれば、
私はそれだけでもう幸福なのでしょうがお祖母《ばあ》様」
涙の流れるのを
紛らしている様子のかわいそうなのを御覧になって、
宮はほろほろと涙をこぼしてお泣きになった。
「母を亡《な》くした子というものは、
各階級を通じて皆そうした心細い思いをしているのだけれど、
だれにも自分の運命というものがあって、
それぞれに出世してしまえば、
軽蔑する人などはないのだから、
そのことは思わないほうがいいよ。
お祖父様が
もうしばらくでも生きていてくだすったらよかったのだね、
お父様がおいでなんだから、
お祖父様くらいの愛は
あなたに掛けていただけると信じてますけれど、
思うようには行かないものなのだね。
内大臣もりっぱな人格者のように世間で言われていても、
私に昔のような平和も幸福もなくなっていくのは
どういうわけだろう。
私はただ長生きの罪にしてあきらめますが、
若いあなたのような人を、
こんなふうに少しでも
厭世《えんせい》的にする世の中かと思うと恨めしくなります」
と宮は泣いておいでになった。
🪷🎼唐紅、枯葉散りて written by 蒲鉾さちこ
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