
イザナギの命はお隱れになつた女神にもう一度會いたいと思われて、
後《あと》を追つて黄泉《よみ》の國に行かれました。
そこで女神が御殿の組んである戸から出てお出迎えになつた時に、
イザナギの命《みこと》は、
「最愛のわたしの妻よ、あなたと共に作つた國はまだ作り終らないから還つていらつしやい」
と仰せられました。
しかるにイザナミの命《みこと》がお答えになるには、
「それは殘念なことを致しました。
早くいらつしやらないのでわたくしは黄泉《よみ》の國の食物を食べてしまいました。
しかしあなた樣がわざわざおいで下さつたのですから、
なんとかして還りたいと思います。
黄泉《よみ》の國の神樣に相談をして參りましよう。
その間わたくしを御覽になつてはいけません」
とお答えになつて、御殿のうちにお入りになりましたが、
なかなか出ておいでになりません。
あまり待ち遠だつたので左の耳のあたりにつかねた髮に插《さ》していた
清らかな櫛の太い齒を一本|闕《か》いて一本 火を燭《とぼ》して入つて御覽になると
蛆《うじ》が湧《わ》いてごろごろと鳴つており、
頭には大きな雷が居、胸には火の雷が居、
腹には黒い雷が居、陰にはさかんな雷が居、
左の手には若い雷が居、右の手には土の雷が居、
左の足には鳴る雷が居、右の足にはねている雷が居て、
合わせて十種の雷が出現していました。
そこでイザナギの命が驚いて逃げてお還りになる時にイザナミの命は
「わたしに辱《はじ》をお見せになつた」
と言つて黄泉《よみ》の國の魔女を遣《や》つて追わせました。
よつてイザナギの命が御髮につけていた黒い木の蔓《つる》の輪を取つて
お投げになつたので野葡萄《のぶどう》が生《は》えてなりました。
それを取つてたべている間に逃げておいでになるのをまた追いかけましたから、
今度は右の耳の邊につかねた髮に插しておいでになつた清らかな櫛の歯をかいて
お投げになると筍《たけのこ》が生《は》えました。
それを拔いてたべている間にお逃げになりました。
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