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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記5 第1巻 下天地蔵5〈げてんじぞう〉】🎍「‥あの傲慢な生き物が、わしには、まざと、鎌倉の執権殿そッくりに見えてきたのだ。そこが酒だな。もう余りは過ごすまい」


「右馬介、右馬介っ。早く来い。逃げるが一手だぞ」

わざと五条橋を避け、

主従とも、七条河原へまぎれたのは、

相手の追尾《ついび》よりも、帰る先と、

身分を知られることの方が、

より恐《こわ》かったからにちがいない。

「いやどうも、若殿のお悪戯《わるさ》には、

 驚きまいた。物にもよりけり、相手にもよるものを」

「やはり酒のなせる業《わざ》だったな」

「そんなお悪いご酒癖《しゅぐせ》とは、

 ついぞ今日まで、右馬介も存じませんでしたが」

「はははは。犬も悪かった。

 あの傲慢《ごうまん》な生き物が、

 わしには、まざと、

 鎌倉の執権殿そッくりに見えてきたのだ。そこが酒だな。

 もう余りは過ごすまい」

「ここは闇の河原、ご放言も、まず大事ございませぬが、

 そんなお胸の底のものは、

 他所では、ゆめ、おつつしみなされませ。

 先刻の小酒屋でのお振舞なども、

 金輪際《こんりんざい》、ご口外は」

「右馬介は、いつまでわしを子供と思うてぞ。

 知っている。心得ておるよ。

 ……ところで、除夜の鐘はまだか」

「はて。除夜はとうに過ぎておりまする。

 やがて東山の空も白みましょうず」

「では、はや元日か。

 さても、おもしろい年を越えたな。

 今年は初春《はる》の夢占《ゆめうら》も

 よからん気がするぞ。

 なあ右馬介、もう寝るまもあるまい。

 宿所へ戻って、若水《わかみず》でも汲むとしようよ」

やがて二人の姿が帰って行った先は、

北ノ六波羅の一|郭《かく》だった。

 むかしは平家一門の車駕《しゃが》が

軒なみの甍《いらか》に映えた繁昌のあとである。

平家亡んで、

源 頼朝、実朝の幕府下にあったのもわずか二、三十年。

——以後、北条氏がとって代ってからは、

中興のひと北条|泰時《やすとき》の善政、

最明寺時頼《さいみょうじときより》の堅持、

また、元寇《げんこう》の国難にあたった

相模太郎《さがみたろう》時宗などの名主《めいしゅ》も出て、

とまれ、北条家七代の現執権高時の今にいたるまで、

南北の六波羅探題以下、評定衆《ひょうじょうしゅう》、

引付衆《ひきつけしゅう》、問注所《もんちゅうじょ》執事、

侍どころ所司《しょし》、検断所、越訴《えっそ》奉行などの

おびただしい鎌倉使臣が居留している

その政治的|聚落《じゅらく》も、

いつか百年余の月日をここにけみしていた。

 夜はしらむ。

 年輪をかさねた六波羅松の松の奏《かな》でに。

 近くの八坂《やさか》ノ神の庭燎《にわび》、

祇園《ぎおん》の神鈴など、

やはり元朝は何やら森厳《しんげん》に明ける。

🎍🎼謹賀新年 written by MATSU

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