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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記31 第1巻 ばさら大名⑥】病後の床あげを機に入道となった高時。同日、佐々木高氏も惜しげもなく髪をおろした。高時は「御家人の鑑ぞ」と、大いに愛で道誉《どうよ》という法名までつけてくれた。

 春昼《しゅんちゅう》、酒はよくまわる。

又太郎もつよいたちだが、佐々木にも大酒の風がある。

 城内の大庭には、紅梅白梅が妍をきそい、

ここには杯交のうちに気をうかがい合う両高氏の笑いがつきない。

はからずも、

これこそ“婆娑羅”な酒《さか》もり景色か。

「ときに……」と、

又太郎からたずねた。

「ぶしつけなれど、御出家にしては余りに早すぎるお頭《つむり》、

 いかなる発心《ほっしん》なあって?」

「ヤ、これですか」

 佐々木は、酒照りも加えて、

一そう青々とかがやいている頭へちょっと手をやって。

「もとより出家ではおざらん。

いうならば、おつきあいの剃髪《ていはつ》とでも申すべきか」

「はて、異なおつきあいを」

「戯言《ざれごと》とおききあるな。

じつを申そう。仕儀はかようなわけでおざった」

——少年時、彼は、執権高時のそばで小姓役をつとめ、

元服祝いなども、鎌倉御所でなされたほどに寵をうけた。

 ところが高時にはまま“おん物狂い”と

人もいう得たいのしれぬ奇病がある。

 そのため先年、

病後の床あげを機《しお》に、薙髪《ちはつ》して入道となった。

同日、佐々木高氏も

「いささか君に殉じ奉る心で……」と、

惜しげもなく髪をおろした。

高時は「佐々木のような者こそ御家人の鑑ぞ」と、

大いに愛《め》でて、

“道誉《どうよ》”という法名までつけてくれた。

——それからの彼への眷顧《けんこ》はまた格別だった。

やがて佐々木が近江七郡守護の職を嗣《つ》ぐ身となっても、

その御信頼は変っていないと、彼自身いうのであった。

「それは、御奇特千万」

 聞《き》き人《て》は笑うのはよろしからずと考えて笑わなかった。

からからと笑ったのは佐々木である。

「執権どのは、常日頃、そうした事のみが、

およろこびのお方なのだ。なべて眼に見えぬことは、

効《か》いもない。

せっかく道誉という法名をいただいたことだし、

いっそ頭《つむり》もこの方がすずやかと、

以来、常時の態《てい》とはいたしておるが」

 きらと、その眸を又太郎高氏の額に射澄まし、

ことばをかえていい出した。

「そうだ、天下の守護大名中に、

 高氏が二人おるのもまぎらわしい。

 以後、それがしは道誉を名のろう。

 高氏という名のりは、足利どの御一人にて持ち給え」

なんによれ、興を主として興に生きるのが、

ばさら者の、ばさら精神というものか。

 彼も少々酔い気味だが、

「今後はおん身一人で“高氏”を名のり給え。

 自分の名は“道誉”でとおす」

などの言辞は、まったく即興的である。

 いやその佐々木が、執権高時の剃髪に殉じて、

共に頭をまろめたなども、半ば即興の機智かもしれない。

 これでは、高時に仕えた小姓の頃、

無二の者と愛されたのも道理である。

犬好き、遊宴好き、田楽狂の執権が、

彼を愛した所以《ゆえん》は、

おそらく彼の田楽役者的な頓才や諂《へつら》いではなかったか。

——と又太郎高氏は、さげすみつつも、

またつい、佐々木道誉の話し上手につりこまれては、

「……が、しかし一種の人物」

 と自然に同調もされてしまう。

 こうした小半日のすえ。

「いささか酔うた」

 道誉は顔を撫で、

「高氏どの、ちと醒ましに庭へ出ようか。

——夜《よ》は夜《よる》を新たにして、

また趣向をかえた杯としようほどに」

と、みずから先に席を離れた。

高氏も大庭へ降りて立つ。

 右馬介、土岐左近、家臣小姓たちも、

ふたりの逍遥につづいて行った。

山城の曲輪は、四山の嵐気《らんき》を断っているが、

伊吹の中腹である、何といっても風は冷たい。

「おつかれかな、高氏どの」

「いや、ひどく快《こころよ》いのです。

それに奇木大石、泉や流れのおもしろさ。

庭造りの結構にも、酔眼が醒まされる」

「ほ。御賞美にあずかったか。

 自慢に似たれど、これも自分の造庭でおざる。

 ……おうここらで、茶など一碗献じようか。

 茶亭のしたくはよかろうな。土岐どのは、先へ行け」

 左近の姿が、木立の中の小道に消えると、

道誉は右馬介と家臣らを見て、

「何せい、茶堂は手ぜま。そちたちは、戻って休息せい」

と、しりぞけた。

🌷🎼#Zen Dawn written by #こおろぎ  

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