2024-06-01から1日間の記事一覧
信連を信達と間違えております。信連合戦が正しいです 五月十五夜の月に照らされた御所は明るかった。 敵も味方も戦いやすい条件ではあったが、 敵は不案内、 信連は近よるものを廻廊に誘い寄せては 一刀のもとに袈裟《けさ》がけに斬り、 壁に何時しか追い…
若君は雲井の雁へ手紙を送ることもできなかった。 二つの恋をしているが、 一つの重いほうのことばかりが心にかかって、 時間がたてばたつほど恋しくなって、 目の前を去らない面影の主に、 もう一度逢うということもできぬかとばかり 歎《なげ》かれるので…
まだ除夜の鐘には、すこし間がある。 とまれ、今年も大晦日《おおつごもり》まで無事に暮れた。 だが、あしたからの来る年は。 洛中の耳も、大極殿《だいごくでん》のたたずまいも、 やがての鐘を、 偉大な予言者の声にでも触《ふ》れるように、 霜白々と、…
「右馬介、右馬介っ。早く来い。逃げるが一手だぞ」 わざと五条橋を避け、 主従とも、七条河原へまぎれたのは、 相手の追尾《ついび》よりも、帰る先と、 身分を知られることの方が、 より恐《こわ》かったからにちがいない。 「いやどうも、若殿のお悪戯《…
「……ふ、ふふふふ」 つい、又太郎は、 独り笑いを杯に咽《むせ》ばせてしまった。 と共に、酒に酔った犬飼の手綱《たづな》を抜け、 いつのまにか側へ来て、 自分の足もとを嗅いでいた紀州犬の鼻ヅラを見たので、 いきなり足をあげて蹴飛ばした。 ——それは、…