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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記4第1巻 下天地蔵④〈げてんじぞう〉】🍶🐕「‥おれが抑えていればこそだが、押ッ放したら、われのどこへ噛ぶりつくかも知れぬぞ」「よいとも。もう一度足であやしてやる。放せ」放されたが‥

「……ふ、ふふふふ」

 つい、又太郎は、

独り笑いを杯に咽《むせ》ばせてしまった。

と共に、酒に酔った犬飼の手綱《たづな》を抜け、

いつのまにか側へ来て、

自分の足もとを嗅いでいた紀州犬の鼻ヅラを見たので、

いきなり足をあげて蹴飛ばした。

——それは、まったく彼の意識なき衝動か、

酒興《しゅきょう》の発作ではあったらしいが。

 人間どもに仕えられて、

近ごろ驕《おご》っていた犬である。

けんっ——

と、するどく悲鳴して、四肢を退くと、

怒りを眸に示して、ひくく唸《うな》った。

 犬以上にも驚いたのは、

飲みはしゃいでいた人間どもの方である。

場所はせまい小酒屋の土間。

「——すわ」

といっても、

小早い身うごきは出来ッこない。

どっと、壁を背にした空間を前に作って、

さて、

あらためて一せいに相手の在る所を睨《ね》めすえた。

「やいっ。——蹴ったな、蹴りおったな。

 神宮の禰宜《ねぎ》どのから、

 鎌倉殿へ御覧に入れようがため、おれどもが預かって、

 道中これまで護って来た大切な、おん犬をば」

宰領《さいりょう》は、足軽頭か。

太刀のつかを叩いて、犬の代りに、吠えている。

「は、は、は、は。……おん犬とは」

またしても、又太郎が嘲笑するので、

右馬介は気が気でなく、

酒板の下で、その袖を、引っ張った。

そして、自分が詫《わ》びようとでも思ってか、

床几の腰を浮かしかけると、

「右馬介、おまえは黙っておれ。

 わしのしたことだ、わしが物申す」

すると、返辞は、足軽頭が奪い取って。

「なに、物申すだと。

 御献上のおん犬に、土足をくれて、なんの言い条がある」

「ある」

 又太郎は、残りの一杯を、ゆっくり飲みほした。

「犬に訊け。蹴ったのではない。

 足で頭をなでてやったまでのことだ」

「ば、ばかな言い抜けを。蹴られもせぬおん犬が、

 なんであんな声を立てるものか」

「いや、獣《けもの》がしんによろこぶと、

 ああいう声を出すものだ」

「こいつめが、人を小馬鹿にするもほどがある。

 酔うての上の悪戯《わるさ》かと思えば、

 さては故意にやったな。

 検断所《けんだんじょ》へつき出してやる。

 さあ立て。者ども、そいつらを引っぱり出せ」

「まあ、待て、

 わしの言が、うそかほんとか、見た上にしても遅くあるまい。

 これこれ、そこな犬殿の家来。

 もいちどわしの前へそれを曳いて来い」

「どうする」

 言ったのは、大勢の端で、

 犬を抑えていた布直垂《ぬのひたたれ》の犬使いらしい男だった。

「——おれが抑えていればこそだが、押ッ放したら、

 汝《わ》れのどこへ噛ぶりつくかも知れぬぞよ」

「おおよいとも。もいちど足であやしてやる。放せ」

 放されたが、犬は一気にバッとは来ない。

 要心ぶかく、のそのそと近づいた。

 そして、底知れぬ獰猛《どうもう》さを

 雪白の毛並みにうねらせた。だのに又太郎は、

 われから革足袋《かわたび》の片方を上げて、

 彼の鼻ヅラへ見せている。

 犬は疑った。ちょっと、姿勢を低くした。

 が、それは支度か、いきなり桃色の口をかっと裂き、

 相手の足首へ咬《か》ぶりついた。

 咄嗟《とっさ》に、又太郎はその足を引くことなく、

 逆に、足のツマ先へ槍のごとき迅さを加え、

 犬の喉ふかくまで突ッこんだ。

 それは、あるまじき光景だった。

異様な絶叫が人の耳を打ち、

白い尾も胴体も意気地なくころがッた。

 いや、それも見ず、

又太郎は小酒屋を飛び出していた。

幾人かを刎《は》ね飛ばした覚えはある。

だが、振向いて後ろへ呼ぶには、数百歩の宙を要した。

🍶🎼酔いどれふらふら written by ゆうり

 

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