2023-03-26から1日間の記事一覧
二条の院へ帰って、源氏は又寝《またね》をしながら、 何事も空想したようにはいかないものであると思って、 ただ身分が並み並みの人でないために、 一度きりの関係で退《の》いてしまうような態度の取れない点を 煩悶《はんもん》するのだった。 そんな所へ…
「いくそ度《たび》 君が沈黙《しじま》に 負けぬらん 物な云《い》ひそと 云はぬ頼みに 言いきってくださいませんか。 私の恋を受けてくださるのか、受けてくださらないかを」 女王の乳母の娘で 侍従という気さくな若い女房が、 見かねて、女王のそばへ寄っ…
八月の二十日過ぎである。 八、九時にもまだ月が出ずに星だけが白く見える夜、 古い邸《やしき》の松風が心細くて、 父宮のことなどを言い出して、 女王は命婦といて泣いたりしていた。 源氏に訪ねて来させるのに よいおりであると思った命婦のしらせが 行っ…
秋になって、 夕顔の五条の家で聞いた砧《きぬた》の 耳についてうるさかったことさえ 恋しく源氏に思い出されるころ、 源氏はしばしば常陸の宮の女王へ手紙を送った。 返事のないことは秋の今も初めに変わらなかった。 あまりに人並みはずれな態度をとる女…
「常陸の宮の返事が来ますか? 私もちょっとした手紙をやったのだけれど何にも言って来ない。 侮辱された形ですね」 自分の想像したとおりだ、 頭中将はもう手紙を送っているのだと思うと 源氏はおかしかった。 「返事を格別見たいと思わない女だからですか…