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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【源氏物語795 第26帖 常夏6〈とこなつ〉】源氏の心はますます玉鬘の君へひかれるばかりであった。苦しいほどにも恋しくなった。源氏はとうていこの恋心は抑制してしまうことのできるものでないと知った。

「貫川《ぬきがは》の瀬々《せぜ》のやはらだ」

(やはらたまくらやはらかに寝る夜はなくて親さくる妻)と

なつかしい声で源氏は歌っていたが「親さくる妻」は少し笑いながら歌い終わったあとの

清掻《すがが》きが非常におもしろく聞かれた。

「さあ弾いてごらんなさい。

芸事は人に恥じていては進歩しないものですよ。

『想夫恋《そうふれん》』だけはきまりが悪いかもしれませんがね。

とにかくだれとでもつとめて合わせるのがいいのですよ」

 源氏は玉鬘の弾くことを熱心に勧めるのであったが、九州の田舎で、

京の人であることを標榜《ひょうぼう》していた王族の端くれのような人から

教えられただけの稽古《けいこ》であったから、

まちがっていてはと気恥ずかしく思って玉鬘は手を出そうとしないのであった。

源氏が弾くのを少し長く聞いていれば得る所があるであろう、

少しでも多く弾いてほしいと思う玉鬘であった。

いつとなく源氏のほうへ膝行《いざ》り寄っていた。

「不思議な風が出てきて琴の音響《ひびき》を引き立てている気がします。

どうしたのでしょう」

 と首を傾けている玉鬘の様子が灯《ひ》の明りに美しく見えた。

源氏は笑いながら、

「熱心に聞いていてくれない人には、外から身にしむ風も吹いてくるでしょう」

 と言って、源氏は和琴を押しやってしまった。

玉鬘は失望に似たようなものを覚えた。

女房たちが近い所に来ているので、

例のような戯談《じょうだん》も源氏は言えなかった。

「撫子《なでしこ》を十分に見ないで青年たちは行ってしまいましたね。

どうかして大臣にもこの花壇をお見せしたいものですよ。

無常の世なのだから、すべきことはすみやかにしなければいけない。

昔大臣が話のついでにあなたの話をされたのも今のことのような気もします」

 源氏はその時の大臣の言葉を思い出して語った。

玉鬘は悲しい気持ちになっていた。

「なでしこの常《とこ》なつかしき色を見ばもとの垣根《かきね》を人や尋ねん

 私にはあなたのお母さんのことで、やましい点があって、

それでつい報告してあげることが遅れてしまうのです」

 と源氏は言った。

玉鬘は泣いて、

山がつの垣《かき》ほに生《お》ひし撫子《なでしこ》のもとの根ざしをたれか尋ねん

 とはかないふうに言ってしまう様子が若々しくなつかしいものに思われた。

源氏の心はますますこの人へ惹《ひ》かれるばかりであった。

苦しいほどにも恋しくなった。

源氏はとうていこの恋心は抑制してしまうことのできるものでないと知った。

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