「どうしてだれが私に言ったことかも覚えていないのだが、
あなたのほうの大臣がこのごろほかでお生まれになったお嬢さんを引き取って
大事がっておいでになるということを聞きましたがほんとうですか」
と源氏は弁《べん》の少将に問うた。
「そんなふうに世間でたいそうに申されるようなことでもございません。
この春大臣が夢占いをさせましたことが噂《うわさ》になりまして、
それからひょっくりと自分は縁故のある者だと名のって出て来ましたのを、
兄の中将が真偽の調査にあたりまして、
それから引き取って来たようですが、私は細かいことをよく存じません。
結局珍談の材料を世間へ呈供いたしましたことになったのでございます。
大臣の尊厳がどれだけそれでそこなわれましたかしれません」
少将の答えがこうであったから、
ほんとうのことだったと源氏は思った。
「たくさんな雁《かり》の列から離れた一羽までもしいてお捜しになったのが
少し欲深かったのですね。
私の所などこそ、子供が少ないのだから、
そんな女の子なども見つけたいのだが、
私の所では気が進まないのか少しも名のって来てくれる者がない。
しかしともかく迷惑なことだっても大臣のお嬢さんには違いないのでしょう。
若い時分は無節制に恋愛関係をお作りになったものだからね。
底のきれいでない水に映る月は曇らないであろうわけはないのだからね」
と源氏は微笑しながら言っていた。
子息の左中将も真相をくわしく聞いていることであったから
これも笑いを洩《も》らさないではいられなかった。
弁の少将と藤侍従《とうのじじゅう》はつらそうであった。
「ねえ朝臣《あそん》、おまえはその落ち葉でも拾ったらいいだろう。
不名誉な失恋男になるよりは同じ姉妹なのだからそれで満足をすればいいのだよ」
子息をからかうような調子で父の源氏は言うのであった。
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