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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語143 富士川②】忠度には、優しい話がある。彼はさる女房を恋してそこへ通っていたが、ある夜、訪ねてゆくと、合憎、女の来客中であった。話がはずむのか客は帰らず、夜は空しく更けてゆく‥

 この忠度には、心やさしい話がある。

彼はさる皇女から生れた女房を恋してそこへ通っていたが、

ある夜、訪ねてゆくと、合憎、女の来客中であった。

話がはずむのか客は帰らず、夜は空しく更けてゆく。

客は高貴な女房であるから、忠度といえどもお帰り願う訳にはいかない。

焦《いら》だった忠度は軒端近くたたずみ、

扇を手荒く使ってそれとなく意志を伝えようとしたが、一向にその効果はない。

夜は、いよいよ更け行く。軒端の忠度の扇がばたばた物すごい音を立てる。

すると室内から優しい声が外に洩れてきた。

「野もせにすだく虫の音よ」

 この口ずさむ声に忠度は、おとなしく扇を収め、そのまま家にもどったのである。

その後、女房のところに通った夜、

「いつかの夜、なぜ扇を使い止められたのですか」

 と女房に問われた忠度は、

「かしがまし野もせにすだく虫の音よ、とおっしゃったでしょう。

それで残念でしたが、淋しくひとり帰ったのですよ」

 といった。

この女房は忠度出陣の噂を聞き、小袖一かさねを贈ったが、

千里の旅の別れを惜しんで和歌一首を添えた。

東路《あずまじ》の草葉をわけん袖よりも

  たたぬ袂《たもと》の露ぞこぼるる

 忠度はすぐ歌を返した。

別れ路を何かなげかん越えてゆく

  関もむかしの跡と思えば

 この、関も昔の跡というのは、先祖平貞盛、俵藤太秀郷《たわらとうたひでさと》が

将門《まさかど》追討のために東国へ下ったことを思い出して詠んだものである。

🌼🎼 Silence written by 北見ヒツジ   

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