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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【平家物語117 第5巻 月見②】庭に生い茂る野草が月明らかに照らし、 草をそよがす秋風に降る虫の声が哀れにまじる。 今様を三度くり返すうちに、大将も大宮の眼にも涙が浮んだ。 侍従は袖で顔をおおった。

 実定の身内のもので、

この京に残っているものは近衛河原の大宮ただ一人、

荒野をさまようにも似た心地の実定は大宮を訪れた。

従者が大門を叩く。

「どなた、蓬の露を払ってまで訪れる人もないのに」

とは女の声、あとは一人呟くともとれぬ声である。

「福原から大将殿がお見えでございます」

「まことでございましょうか、大門には錠がかかっております。

東の小門からお入り下さりませ」

 東の小門から内に入った大将は、

南面の格子を開き琵琶を弾いている大宮を認めた。

寂しさのあまり、こうして一人昔のことを偲んでいたのであろうか。

すっと室に入った大将に大宮は夢とばかりに喜んだ。

 この席に、大宮に仕えている待宵《まつよい》の侍従がよばれた。

彼女はある時御所で、

「恋人を待つ宵、帰える朝、いずれが哀れまさろうか」

 との問に、

『まつよいの更けゆく鐘の声きけば

  かえるあしたの鶏《とり》はものかは』

と詠み、待つ宵のやる瀬なさを歌ったので、

以後待宵の侍従と呼ばれた。

三人でつもる話がはずみ、夜は更けていった。

この夜、大将実定は、

古き都の荒れ行くさまを今様《いまよう》に歌った。

『ふるき都を来て見れば 浅茅《あさじ》が原とぞ荒れにける

 月の光は隈《くま》なくて 秋風のみぞ身にはしむ』

庭に生い茂る野草が月明らかに照らし、

草をそよがす秋風に降る虫の声が哀れにまじる。

今様を三度くり返すうちに、大将も大宮の眼にも涙が浮んだ。

侍従は袖で顔をおおった。

 一夜明かした実定が暇を告げた。

しばらくして供の蔵人《くらんど》を召した彼は、

「侍従待宵はどう思っているのだろう、あまりに名残惜しく見えたから、

 お前戻って何か申してまいれ」

蔵人が走り帰って侍従にあい、

 

『物かはと君がいいけん鶏《とり》の音の

  今朝《けさ》しもなどか悲しかるらん』

女房はただちに詠み返した。

『待たばこそ更けゆく鐘もつらからめ

  帰るあしたの鶏《とり》の音ぞうき』

実定のところにもどってこの由をつたえると、

大将は大いに感心したが、

以後この蔵人は「ものかはの蔵人」と呼ばれたのであった。

🪷🎼 闇夜にたゆたう海 written by 蒲鉾さちこ

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