豊後介《ぶんごのすけ》はしみじみする声で、
愛する妻子も忘れて来たと歌われているとき、
その歌のとおりに自分も皆捨てて来た、
どうなるであろう、
力になるような郎党は皆自分がつれて来てしまった。
自分に対する憎悪の念から
大夫の監は彼らに復讐をしないであろうか、
その点を考えないで幼稚な考えで、脱出して来たと、
こんなことが思われて、気の弱くなった豊後介は泣いた。
「胡地妻子虚棄損《こちのさいしをむなしくすつ》」と
こう兄の歌っている声を聞いて兵部も悲しんだ。
自分のしていることは何事であろう、
愛してくれる男ににわかにそむいて出て来たことを
どう思っているであろうと、
こんなことが思われたのである。
京へはいっても自分らは帰って行く邸《やしき》などはない、
知人の所といっても、
たよって行ってよいほど頼もしい家もない、
ただ一人の姫君のために生活の根拠のできていた土地を離れて、
空想の世界へ踏み入ろうとする者であると豊後介は考えさせられた。
姫君をもどうするつもりでいるのであろうと
自身であきれながらも今さらしかたがなくて
そのまま一行は京へはいった。
🪷🎼凍月の下で written by 香居
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