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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記17 第1巻 大きな御手⑨】源平争覇の社会を眼に見た人間は地上にいない。 蒙古襲来の国難も、老人の炉辺話でしかなかったの。四十年の無事泰平は、誰からも、過去の悪夢を忘れさせていた。


奥州北津軽から四国へ帰るという一僧侶が、

長柄の船待ちで、しゃべっていたものである。

 津軽の豪族、安藤季長《あんどうすえなが》、

安藤五郎、ほかすべての一族同士が

受領《じゅりょう》の領域を争いあい、

ついに陸奥《みちのく》一帯に布陣し出したということだった。

 いや、一僧の言だけでなく、

べつな旅商人らしい男も、

「なんのなんの。もう諸所では合戦の最中だ。

 槍、刀、馬の鞍など、白河ノ関からこっちでさえ、 

 去年の三倍にも値が刎《は》ね上がッている」

 と、ひとり力《りき》んだ証言をしていた。

「ほう。……では、蝦夷の空は戦《いくさ》かいな」

群集、多くの顔は、うららかに聞いていた。

もう源平争覇の社会を眼に見た人間は地上にいない。

 蒙古襲来の国難なども、

老人の炉辺話でしかなかったのである。

四十年の無事泰平は、誰からも、

全く過去の悪夢を忘れさせていた。

 やがて主従は、ゆうべの船宿の一室にいた。

又太郎は風聞の仔細を語った上で。

「……が喃《のう》、右馬介。

 足利の地にとっては、

 こりゃ対岸の火災とは見ておれまいぞ。

 乱が大きくなれば、必定《ひつじょう》、

 鎌倉幕府からわが家へも、出兵の令が降るであろうし、

 なおまた……」

ここまで言いかけると、彼はその地蔵あばたの頬を、

笑み割れそうにほころばせた。

「知らぬか。——“ 

一雲を見て凶天を知る”という言葉もあるのを」

 

🪷🎼これから始まる、朝 written by roku

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