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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

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つれない空蝉 小君と添い寝する源氏【源氏物語29 第2帖 箒木18 完】小君の活躍で紀伊守の屋敷に忍び込むも、女君は心が揺れながらも受け入れない。

【源氏物語 第二帖 💠箒木(ははきぎ)】
 〜五月雨が降る夜、光源氏が宮中で宿直をしているところに、頭中将(葵の上の兄)ら仲間の貴公子たちが訪れた。 各々自分の恋愛体験を語り、女性を三つの品、上の品、中の品、下の品と階級に分けて自分の持論を展開します。 光源氏はこの話し合いをきっかけに、それまで縁のなかった中流の女性に興味を持つようになりました。 そして、光源氏は方違えに、紀伊守の屋敷に行くことになった。 そこで伊予守の妻で、紀伊守の継母の空蝉に契を結びます(中の品の女人) 空蝉も光源氏に心惹かれますが、あまりの立場の違いから距離をとります。

「昨日《きのう》も一日おまえを待っていたのに出て来なかったね。

 私だけがおまえを愛していても、おまえは私に冷淡なんだね」  

恨みを言われて、小君は顔を赤くしていた。

「返事はどこ」

小君はありのままに告げるほかに術《すべ》はなかった。

「おまえは姉さんに無力なんだね、返事をくれないなんて」

そう言ったあとで、また源氏から新しい手紙が小君に渡された。

「おまえは知らないだろうね、

 伊予の老人よりも私はさきに姉さんの恋人だったのだ。

 頸《くび》の細い貧弱な男だからといって、

 姉さんはあの不恰好な老人を 夫に持って、

 今だって知らないなどと言って 私を軽蔑しているのだ。

 けれどもおまえは私の子になっておれ。

 姉さんがたよりにしている人はさきが短いよ」

と源氏がでたらめを言うと、

小君はそんなこともあったのか、

済まないことをする姉さんだと思う様子をかわいく源氏は思った。

 

小君は始終源氏のそばに置かれて、

御所へもいっしょに連れられて行ったりした。

源氏は自家の衣裳係に命じて、 小君の衣服を新調させたりして、

言葉どおり親代わりらしく世話をしていた。

女は始終源氏から手紙をもらった。

けれども弟は子供であって、

不用意に自分の書いた手紙を落とすようなことをしたら、

もとから不運な自分が

また正しくもない恋の名を取って泣かねばならないことになるのは

あまりに自分がみじめであるという考えが根底になっていて、

恋を得るということも、

こちらにその人の対象になれる自信のある場合にだけあることで、

自分などは光源氏の相手になれる者ではないと思う心から

返事をしないのであった。

 

ほのかに見た美しい源氏を思い出さないわけではなかったのである。

真実の感情を源氏に知らせても さて何にもなるものでないと、

苦しい反省をみずから強いている女であった。

源氏はしばらくの間もその人が忘られなかった。

気の毒にも思い恋しくも思った。

女が自分とした過失に苦しんでいる様子が目から消えない。

本能のおもむくままに忍んであいに行くことも、

人目の多い家であるからそのことが知れては困ることになる、

自分のためにも、 女のためにもと思っては煩悶《はんもん》をしていた。

 

例のようにまたずっと御所にいた頃、

源氏は方角の障《さわ》りになる日を選んで、

御所から来る途中でにわかに気がついたふうをして紀伊守の家へ来た。

紀伊守は驚きながら、

「前栽《せんざい》の水の名誉でございます」

こんな挨拶《あいさつ》をしていた。

小君《こぎみ》の所へは

昼のうちからこんな手はずにすると源氏は言ってやってあって、

約束ができていたのである。

始終そばへ置いている小君であったから、源氏はさっそく呼び出した。

女のほうへも手紙は行っていた。

自身に逢おうとして払われる苦心は 女の身にうれしいことではあったが、

そうかといって、源氏の言うままになって、

自己が何であるかを知らないように 恋人として逢う気にはならないのである。

夢であったと思うこともできる過失を、

また繰り返すことになってはならぬとも思った。

妄想で 源氏の恋人気どりになって待っていることは

自分にできないと女は決めて、

小君が源氏の座敷のほうへ出て行くとすぐに、

「あまりお客様の座敷に近いから失礼な気がする。

 私は少しからだが苦しくて、腰でもたたいてほしいのだから、

 遠い所のほうが都合がよい」

と言って、

渡殿《わたどの》に持っている中将という女房の部屋へ 移って行った。

初めから計画的に来た源氏であるから、 家従たちを早く寝させて、

女へ都合を聞かせに小君をやった。

小君に姉の居所がわからなかった。

やっと渡殿の部屋を捜しあてて来て、源氏への冷酷な姉の態度を恨んだ。

 

「こんなことをして、姉さん。

 どんなに私が無力な子供だと思われるでしょう」

もう泣き出しそうになっている。

「なぜおまえは子供のくせによくない役なんかするの、

 子供がそんなことを頼まれてするのはとてもいけないことなのだよ」

としかって、

「気分が悪くて、

 女房たちをそばへ呼んで介抱をしてもらっていますって申せばいいだろう。

 皆が怪しがりますよ、こんな所へまで来てそんなことを言っていて」

取りつくしまもないように姉は言うのであったが、

心の中では、こんなふうに運命が決まらないころ、

父が生きていたころの自分の家へ、

たまさかでも源氏を迎えることができたら自分は幸福だったであろう。

 

しいて作るこの冷淡さを、 源氏はどんなにわが身知らずの女だと

お思いになることだろうと思って、

自身の意志でしていることであるが 胸が痛いようにさすがに思われた。

どうしてもこうしても人妻という束縛は解かれないのであるから、

どこまでも冷ややかな態度を押し通して変えまいという気に 女はなっていた。

源氏はどんなふうに計らってくるだろうと、

頼みにする者が少年であることを 気がかりに思いながら寝ているところへ、

だめであるという報せを小君が持って来た。

女のあさましいほどの冷淡さを知って源氏は言った。

「私はもう自分が恥ずかしくってならなくなった」

気の毒なふうであった。

それきりしばらくは何も言わない。

そして苦しそうに吐息《といき》をしてからまた女を恨んだ。

『帚木《ははきぎ》の心を知らで その原の

 道にあやなく まどひぬるかな』

 今夜のこの心持ちはどう言っていいかわからない、

と小君に言ってやった。

女もさすがに眠れないで悶《もだ》えていたのである。

それで、

『数ならぬ 伏屋《ふせや》におふる 身のうさに

 あるにもあらず 消ゆる帚木』

という歌を弟に言わせた。

小君は源氏に同情して、

眠がらずに行ったり来たりしているのを、

女は人が怪しまないかと気にしていた。

 

いつものように酔った従者たちはよく眠っていたが、

源氏一人はあさましくて寝入れない。

普通の女と変わった意志の強さの

ますます明確になってくる相手が恨めしくて、

もうどうでもよいとちょっとの間は思うが すぐにまた恋しさがかえってくる。

「どうだろう、隠れている場所へ私をつれて行ってくれないか」

「なかなか開《あ》きそうにもなく戸じまりがされていますし、

 女房もたくさんおります。

 そんな所へ。もったいないことだと思います」

と小君が言った。

源氏が気の毒でたまらないと小君は思っていた。

「じゃあもういい。おまえだけでも私を愛してくれ」

と言って、源氏は小君をそばに寝させた。

若い美しい源氏の君の横に寝ていることが

子供心に非常にうれしいらしいので、

この少年のほうが無情な恋人よりもかわいいと源氏は思った。

〜箒木 ははきぎ  完 〜

 

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