源氏はまだようやく曙《あけぼの》ぐらいの時刻に南御殿へ帰った。
こんなに早く出て行かないでもいいはずであるのにと、
明石はそのあとでやはり物思わしい気がした。
紫の女王はまして、失敬なことであると、
不快に思っているはずの心がらを察して、
「ちょっとうたた寝をして、若い者のようによく寝入ってしまった私を、
迎えにもよこしてくれませんでしたね」
こんなふうにも言って機嫌《きげん》を取っているのもおもしろく思われた。
打ち解けた返辞のしてもらえない源氏は困ったままで、
そのまま寝入ったふうを作ったが、朝はずっと遅くなって起きた。
正月の二日は臨時の饗宴《きょうえん》を催すことになっていたために、
忙しいふうをして源氏はきまり悪さを紛らせていた。
親王がたも高官たちもほとんど皆六条院の新年宴会に出席した。
音楽の遊びがあって贈り物に纏頭《てんとう》に六条院にのみよくする華奢が見えた。
多数の縉紳《しんしん》は皆きらびやかに風采《ふうさい》を作っているが、
源氏に準じて見えるほどの人もないのであった。
個別的に見ればりっぱな人の多い時ではあるが、
源氏の前では光彩を失ってしまうのが気の毒である。
つまらぬ下僕《しもべ》なども主人に従って六条院へ来る時には、
服装も身の取りなしをも晴れがましく思うのであったから、
まして年若な高官たちは妙齢の姫君が新たに加わった六条院の参座には
夢中になるほど容姿を気にして来て、平年と違った光景が現出された新春であった。
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