右近は旅からすぐに六条院へ出仕した。
姫君の話をする機会を早く得たいと思う心から急いだのである。
門をはいるとすでにすべての空気に
特別な豪華な家であることが感ぜられるのが六条院である。
来る車、出て行く車が無数に目につく。
自分などがこの家の一人の女房として自由に出入りをすることも
まばゆい気のすることであると右近に思われた。
その晩は主人夫婦の前へは出ずに、
部屋へ引きこもって右近はまた物思いをした。
翌日は昨日自宅から上がって来た高級の女房が
幾人《いくたり》もある中から、
特に右近が夫人に呼び出されたのを、右近は誇らしく思った。
源氏も夫人の居間にいた。
「どうして長く家へ行っていたのかね。
少しこれまでとは違っているのではないか。
独身者はこんな所にいる時と違って、
自宅では若返ることもできるのだろう。
おもしろいことがきっとあったろう」
などと例の困らせる気の戯談《じょうだん》を源氏が言う。
「ちょうど七日お暇《いとま》をいただいていたのでございますが、
おもしろいことなどはなかなかないのでございます。
山へ参りましてね。お気の毒な方を発見いたしました」
「だれ」
と源氏は尋ねた。
突然その話をするのも、
これまで夫人にしていない昔の話から筋を引いていることを、
源氏にだけ言えば夫人があとで話をお聞きになって
不快がられないかなどと右近は迷っていて、
「またくわしくお話を申し上げます」
と言って、
ほかの女房たちも来たのでそのまま言いさしにした。
🌷🎼#faint memory written by #すもち
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