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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記29 第1巻 ばさら大名④】頬うるわしく唇紅く、小鼻のわきの黒子に好色的ないやらしさが気づかれるほかは、いかにも守護大名らしい恰幅の重さと、どこやらに狡さをかくした微笑までそなえている。

「さすが花奢《かしゃ》だな、右馬介」

「おなじ守護大名ながら、

 下野国の御家風と、ここの佐々木屋形では」

「まさに、月とすっぽん」

 ——翌朝、起き出てみると、

総曲輪《そうぐるわ》は砦《とりで》づくりらしいが、

内の殿楼、庭園の数寄《すき》など、

夜前の瞠目《どうもく》以上だった。

遠くの高欄《こうらん》をちらと行く侍女やら

上﨟《じょうろう》の美しさも、都振りそッくりを、

この伊吹の山城《やまじろ》へ移し植えたとしか思えない。

 それにつけ、又太郎は、

「当主高氏とは、そも、どんな?」

 と、今日の会見が変に待たれた。

やがて。

夜前に約した時刻になると、土岐左近が迎えにみえ、

ふたりを誘ってべつな広間へみちびいた。

 上座《かみざ》の茵《しとね》は、

上下なしの意味か、親しみの心か、二つならべて敷いてある。

右馬介は、もちろん末座。

 そして又太郎だけが、ずっと進んで、

その一つに着こうとしたとき、

廊の杉戸口からつかつかと入って来た佐々木高氏が、

もひとつの茵を前に、

「やあ」

とだけいって、ひと呼吸ほどな間《ま》を措き、

「御着座を」

すすめながら、自身も共にどっかと坐った。

当時の作法、いうまでもなくあぐらである。

「ご迷惑とは存じたが、下野と近江とでは、

 またのお会いもいつの日かと、土岐が申すままお引留め申した。

お見知りおきください。

身どもが佐々木佐渡ノ判官高氏でおざる」

「御同様に。……足利又太郎高氏におざりまする」

「はははは。高氏と高氏、これがまことの名のり合いよの」

せつなの印象では、この初対面も、

又太郎には何か心にそぐわない“他人”を感じただけだった。

足利高氏と佐々木高氏。

——名のりは同じであっても、

どこひとつ、自分とは似ても似つかない。

「これはあかの他人だ」と、

すぐ夜来の期待も他愛なく潰《つい》えていた。

 が今、佐々木高氏が胸をそらして笑った朗らかな顔と、

その異形《いぎょう》なる身粧《みなり》とには、

俄に眼を拭《ぬぐ》わされたことでもある。

——予想とは全然|外《はず》れていたにしても、

天下、かずある守護大名中には、

こんな異例な大名もあるかと、

あらためて目前の一人物に白紙となって

細やかな眼をこらさずにいられなかった。

 きのう、途々での土岐左近の話だと

「——お年もあなたと同じくらい」と聞かされたが、

いま会ってみれば、ちと違う。二ツ三ツは上であろう。

いや風采といい大人びた態度など十も年上に覚えられる。

が、やはりほんとのところは二十を少し出たぐらいか。

そんな若さなのに、である。

見れば佐々木は、

みごとに頭を青々と剃りまろめた“入道高氏”なのだった。

といってべつに、法体《ほったい》ではない。

 身なりはむしろ女装にも勝るけんらんさで、

白地絖《しろじぬめ》に葦手《あしで》模様を

小紫濃《こむらご》のなかに散らした小袖、

それへ袖のない“陣座羽織り”というものを着て、

袴も唐織りらしい綺羅《きら》、

前差しの小刀も美作《びさく》な黄金づくりである。

これ以上流行の粋も尽しようがないほどだ。

 かつまた、隠し化粧もしているのであるまいか。

頬うるわしく唇紅く、

小鼻のわきの黒子《ほくろ》に

好色的ないやらしさが気づかれるほかは、

いかにも近江七郡の守護大名らしい恰幅《かっぷく》の重さと、

どこやらに狡《ずる》さをかくした微笑までそなえている。

🌺🎼#二胡のための小品〜オリエンタリズムwritten by #小林樹

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