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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記11 第1巻 大きな御手〈みて〉③】笛の孔に無心な指の律動を筬のように弾ませておられる お手のなんとも大きなこと。貴人にして力士のようなお手である。把握欲と闘志の象徴とでもいえるものか。

「主上《きみ》には、

 ご受禅《じゅぜん》(み位をうける)の後は、

 政務のひまにも、講書の勉《つと》め、

 詩文の会など、ひたぶる御勉強のみと伺うが、

 余りな御精励もおからだが案ぜらるる。

 まれには、ちと、おすごしもよかろ」

 法皇は、後醍醐の御酒量のほども知っておられる。

み手ずから酌してあげぬばかりなおすすめの仕方であった。

 酒間には、

法皇のお覚えよき寿王とかいう冠者の“

落蹲《らくそん》ノ舞”などあって、

女房たちの座も初春《はる》らしい灯に笑いさざめいた。

 ——頃をみて。

「あまりお酔も深からぬうちに」

 と、頭《とう》ノ蔵人《くらんど》冬方《ふゆかた》が、

みかどの前に、お笛筥を供える。

これは朝覲の式の古例とか。

後醍醐は、父皇のための御笛を、

み手に取って吹いた。

 そとの濃い闇には、

雪が音もなく降り出していた。

聞きいる人たちの幻想には、

白々と戯れる雪の斑《ふ》が、

みかどの豊かなおん横顔や笛の手に

重なって見えるように思われた。

 お年ばえといい、

おからだの逞《たくま》しさといい、

まさに壮者のお盛りであった。

どちらかといえば、御性情も面ばせも、

後宇多には似給わず、

亡き母ぎみの談天門院《だってんもんいん》の美貌を

うけていらっしゃる。

似絵《にせえ》師のことばでよく、

“藤原顔”というあの瓜実顔《うりざねがお》ではあるが、

鳳眼《ほうがん》するどく、

濃いおん眉、意志のつよげなお唇もと、

また、ひげ痕も青々と、

皇系にはまれな男性的な御風貌であった。

 わけて、常人《つねびと》の印象となるであろう点は、

笛の孔に無心な指の律動を

筬《おさ》のように弾ませていらっしゃるそのお手の

なんとも大きなことだった。

貴人にして力士のようなお手である。

把握欲と闘志の象徴とでもいえるものか。

なみならぬ天賦の御気質のほどがそれには窺《うかが》われる。

🌺🎼笛の音に寄せて written by ゆうり

 

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