女の言った言葉、
ほんとうよりも控え目な女の容貌の批評、
名手らしい琴の弾きようなどを
忘られぬふうに源氏の語るのを聞いている女王は、
その時代に自分は一人で
どんなに寂しい思いをしていたことであろう、
仮にもせよ良人《おっと》は
心を人に分けていた時代にと思うと恨めしくて、
明石の女のために歎息《たんそく》をしている良人は
良人であるというように、横のほうを向いて、
「どんなに私は悲しかったろう」
歎息しながら独言《ひとりごと》のようにこう言ってから、
思ふどち 靡《なび》く方には あらずとも
我《われ》ぞ煙に先立ちなまし
「何ですって、情けないじゃありませんか、
たれにより 世をうみやまに 行きめぐり
絶えぬ涙に 浮き沈む身ぞ
そうまで誤解されては私はもう死にたくなる。
つまらぬことで人の感情を害したくないと思うのも、
ただ一つの私の願いのあなたと永《なが》く
幸福でいたいためじゃないのですか」
源氏は十三絃の掻《か》き合わせをして、
弾《ひ》けと女王に勧めるのであるが、
名手だと思ったと源氏に言われている女がねたましいか
手も触れようとしない。
おおようで美しく柔らかい気持ちの女性であるが、
さすがに嫉妬《しっと》はして、
恨むことも腹を立てることもあるのが、
いっそう複雑な美しさを添えて、
この人をより引き立てて見せることだと源氏は思っていた。
🌖🎼蒼白な月影 written by まんぼう二等兵 🌖
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