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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

平家物語62 第3巻 有王② 〈ありおう〉〜The Tale of the Heike🌊


 四月の末であった。

苦しい旅路を続けて、どうやら薩摩潟《さつまがた》に着き、

薩摩から鬼界ヶ島へ渡る商人船の船着き場で、

この土地に見慣れぬ有王の風体を怪しむ者がいて、

着ている物をはぎとられて調べられたが、

元結の中に隠した姫の手紙は、

うまい具合に見つからなかったので、

どうやら事なきを得たのであった。

幾多の危難を冒して、漸く目指す鬼界ヶ島へ着いたとき、

有王は、聞きしにまさる荒漠たる風景に驚かされた。

田もなかった。畠もなかった。

もちろん村とか里とかいったものも見当らず、

たまに通りかかる島の土着民は、

これ又今まで聞いたことのない言葉で物を言い、

何を尋ねても、話が通じないのである。

「もしや、このあたりに都から流された

 法勝寺《ほっしょうじ》の執行《しゅぎょう》、

 俊寛僧都のお行方、ご存じありませぬか?」

法勝寺だの、執行だのといっても、馬の耳に念仏で、

ぽかんとして、みんな有王をみていた。

島の人の一人が、それでも漸く話が解ったらしい。

「さあてねえ、そんな人は三人いたようだがなあ、

 何でも二人は都へ帰《け》えって、

 残った人は一人でぶらぶらしていたようだったが、

 この頃は見えねえようだな」

とそれだけ教えてくれた。

 今は有王が独力で探す以外に方法がなかった。

有王は、山から山、峰から峰へと渡り歩き、

終日、俊寛の姿を尋ね求めた。

しかし影すらも見当らない。

再び浜辺に戻ってきた有王は、

暫しぼうぜんと沖の方を眺めてはため息をついた。

ここまで尋ねてきて、逢わずに帰るのは、

何としても残念であった。

たとい、今はこの世の人でなかろうと、

有王は一目、俊寛の姿をみたいと思ったのだ。

人の姿も恐れずに砂浜に遊びたわむれる

鴎や沖の浜千鳥でもいいから、

俊寛の行方を知らせてはくれまいか、

有王はつくづくそう思ったのである。

 

ある朝であった。有王は来る日も来る日も、

まだ諦め切れずに俊寛を求めて探し歩いていたのだが、

磯のあたりを、よろよろしながら歩いている、

かげろうのようにやせ細った人影に出逢った。

頭の具合からみると昔は坊主だったのかも知れないが、

髪の毛は伸び放題に伸び、藻くずだか、それとも、

ごみだかわけのわからぬものが一杯ついている。

着ている物といったら、絹か布かの区別どころか、

ようよう身を掩っているという感じで、

骨と皮ばかりのたるんだ肉体が、

ところどころからのぞいている。

片手にはあらめを、片手には魚を下げて

歩いているとはとてもみえない。

よろよろと地上をはうようにしてやってくるのである。

「都で、ひどい乞食はいろいろ見たことがあるが、

 こんなにひどいのは始めてじゃ、

 まさか、餓鬼道へ迷って来たわけでもないのに」

有王は、その乞食をやり過そうとして、

ふと思い直した。

「こんな者でも、もしかして、

 お主《しゅう》の行方を知っているということもあるからな」

有王は、乞食に近づくと、

いんぎんに声をかけた。

「一寸お尋ねしたいのですが」

「何事?」

「もしや、都から流されてきた法勝寺執行、

 俊寛僧都のお行方をご存じありますまいか?」

聞きもやらず、乞食は、まじまじと有王の顔をみつめた。

「おれじゃ、おれじゃあ、俊寛は」

途端に彼は、

手に持っていた物を投げ捨てるとその場に倒れ伏してしまった。

 さすがに、有王も唖然《あぜん》として言葉が出なかったが、

 すぐさま、抱き起こすと膝の上に抱きかかえて、

 むせび泣きながら、かき口説いた。

「有王でございます。有王が来たのです。

 はるばる苦しい旅を続けながら、

 貴方さまに逢いたいばかりにやってきたというのに、

 どうか、お気を確かにして下さい。

 この有王を見て下さい」

暫くして、次第に生気を取り戻した俊寛は、

もう一度、有王の顔を喰《く》いいる様に見るのだった。

🌖🎼故郷を想って月を見上げる written by alaki paca

 

 

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