「浅はかな、ある型を模倣したにすぎないような女は
読んでいましてもいやになります。
空穂《うつぼ》物語の藤原《ふじわら》の君の姫君は
重々しくて過失はしそうでない性格ですが、
あまり真直《まっすぐ》な線ばかりで、
しまいまで女らしく書かれてないのが悪いと思うのですよ」
と夫人が言うと、
「現実の人でもそのとおりですよ。
風変わりな一本調子で押し通して、
いいかげんに転向することを知らない人はかわいそうだ。
見識のある親が熱心に育てた娘が
ただ子供らしいところにだけ大事がられた跡が見えて、
そのほかは何もできないようなのを見ては、
どんな教育をしたのかと親までも軽蔑されるのが気の毒ですよ。
なんといってもあの親が育てたらしいよいところがあると思われるような娘が
あれば親の名誉になるのです。
作者の賞《ほ》めちぎってある女のすること、
言うことの中に首肯されることのない小説はだめですよ。
いったいつまらない人に自分の愛する人は賞めさせたくない」
などと言って、
源氏は姫君を完全な女性に仕上げることに一所懸命であった。
継母《ままはは》が意地悪をする小説も多かったから、
その反対な継母のよさを見せつける気がして夫人は
そんなものをいっさい省いて選択に選択をしたよいものだけを
姫君のために写させたり絵に描《か》かせたりした。
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