「小説におさせにならないでも、
こんな奇怪なことは話になって世間へ広まります」
「珍しいことだというのですか。
そうです。私の心は珍しいことにときめく」
ひたひたと寄り添ってこんな戯れを源氏は言うのである。
「思ひ余り昔のあとを尋ぬれど親にそむける子ぞ類《たぐ》ひなき
不孝は仏の道でも非常に悪いことにして説かれています」
と源氏が言っても、玉鬘は顔を上げようともしなかった。
源氏は女の髪をなでながら恨み言を言った。やっと玉鬘は、
古き跡を尋ぬれどげになかりけりこの世にかかる親の心は
こう言った。
源氏は気恥ずかしい気がしてそれ以上の手出しはできなかった。
どうこの二人はなっていくのであろう。
紫夫人も姫君に託してやはり物語を集める一人であった。
「こま物語」の絵になっているのを手に取って、
「上手《じょうず》にできた画《え》だこと」
と言いながら夫人は見ていた。
小さい姫君が無邪気なふうで昼寝をしているのが
昔の自分のような気がするのであった。
「こんな子供どうしでも悪い関係がすぐにできるじゃありませんか。
昔を言えば私などは模範にしてよいまれな物堅さだった」
と源氏は夫人に言った。
そのかわりにまれなことも好きであったはずである。
「姫君の前でこうした男女関係の書かれた小説は
読んで聞かせないようにするほうがいい。
恋をし始めた娘などというものが、悪いわけではないが、
世間にはこんなことがあるのだと、
それを普通のことのように思ってしまわれるのが危険ですからね」
こんな周到な注意が実子の姫君には払われているのを、
対の姫君が聞いたら恨むかもしれない。
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