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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

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【私本太平記25 第1巻 大きな御手17完】足利家の者にとっては、先々代の主君家時の話というのは禁句だった。なぜならば、絶対に公表できない原因で、しかもまだ三十代に、あえなく自殺した君だからである。


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 ——およそ足利家の者にとっては、

先々代の主君家時の話というのは禁句だった。

なぜならば、絶対に公表できない原因で、

しかもまだ三十代に、

あえなく自殺した君だからである。

 ところが。

——その家時の血書の“置文”(遺書)というものが、

菩提寺鑁阿寺のふかくに、

家時の霊牌とひとつに封ぜられているということを、

重なる家臣は知っている。

 ——で、又太郎高氏が元服報告の日にも。

「——もはや御元服なされた上は、お見せすべきだ」

という臣と。

「——いやまだ時節でない。

もっと若殿が御成人の後ならでは」

という臣と、両者二説にわかれたため、

その折にも、それはついに開かれずにしまったほど、

足利家にとっては、

なにしても重大な意味をもつ秘封でもあるらしかった。

「……そうだ、わしとしたことが、

 うかと、あの日のことは忘れておった」

 つぶやいて、面をふかく沈めていた又太郎は、

やがてのこと、その顔と共に、

全身も上げて突っ立った。

「出立するぞ。経家、駒の支度をいそがせろ」

「はっ」

「不覚よ、今日まで見ずに過ぎていたのは。

……帰国の上は、すぐにも、

鑁阿寺の置文をこの眼で拝見せねばならぬ」

 経家も立ちかけたが、妙源と顔見あわせると、

共に姿を揃えて、又太郎の足もとに、

もいちど平伏して言った。

「自然、御披見の日が来たものと存ぜられます。

 怖らくはこれも、御先代の霊のあるところ、

 今日となったことも、決して遅くはございますまい」

🪷🎼#寡黙な揺り篭 written by #稿屋 隆  

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