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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

平家物語68 第3巻 無文の太刀〜The Tale of the Heike🌃


 重盛は、

未来を予見する不思議な能力を持っていた。

これは生前の話であるが、

ある夜、重盛は夢を見た。

場所ははっきりとはわからないが、

どこかの浜辺を歩いていると、

道の傍に大きな鳥居がある。

「これは、どこの鳥居だろうか?」

と道ゆく人に聞いてみると、

春日大明神の鳥居ですと答えた。

鳥居の周辺には、何やら人が集って騒いでいる。

よくみると、その中に、

坊主頭の首を高々とさしあげている男がいた。

あの首は、一体誰のか、といって尋ねると、

「これは、平家の清盛公の首じゃ、

 あまりにも悪行が過ぎ、当社の大明神によって、

 召し捕られたのじゃ」

と答えるものがあった。

その声に重盛が、はっと思ったとき、目が覚めたのである。

しかし考えれば考えるほど、

近頃の平家一門の思いあがり振りが気になって、

中々寝つかれない。

そこへ、ほとほとと、

忍びやかに戸をたたく者があった。

こんな夜更けに一体誰が来たのかと思って尋ねると、

それは、

瀬尾太郎兼康《せのおのたろうかねやす》であった。

「今時分、一体何の用で?」

「されば、唯今、不思議な夢をみたもので、

 どうにも夜の明けるまで待っていられず、

 深夜と知りつつ参上仕りました。

何卒お人ばらいを」

兼康の真剣な顔つきから、

何事かを感じとった重盛は、人ばらいをしてから、

彼が見た夢の話を残らず聞いた。

それが驚いたことには、

重盛が見た夢と寸分も違わぬものであった。

重盛は、

今更に平家の行末に思いをはせて

深いため息をついたのである。

 

翌朝重盛が、

院の御所へ出勤する維盛を呼び寄せると、

「親の欲目ということがあるが、

 そなたは、わが息子どもの中では、

 とりわけできのよい子じゃ、ゆくゆく、

 人に抜きん出て出世もいたすであろう。

 しかし近頃の世の中の様子では、

 この先どんなことがあるかもわからぬのう、

 そなたも苦労するであろう、

 こら誰かおらぬか貞能はいないか? 

 少将に酒を」

といって酒が運ばれてくると、重盛が三度うけ、

続いて少将も三度飲み乾そうとしたとき、

重盛が、

「少将への引出物をこれへ」

 といった。

重盛の言葉に、

貞能がつと立って錦の袋に包んだ太刀を捧げ持ってきた。

維盛は、

すぐにそれが家の宝刀といわれる

小烏《こがらす》という太刀であることを知って、

内心喜びを押え切れず、膝を乗りだして押しいただくと、

さっと袋から取出した。

途端に維盛の顔色が変って青白くなった。

維盛は、

貞能の方を訊問《じんもん》するようににらみつけた。

それは、

小烏どころか大臣葬《だいじんそう》のとき使われる

無文の太刀だったからである。

重盛は、維盛のいきり立つのを片手で制しながら、

静かな口調でいった。

「そんなに怒るものではない、

 それは貞能が悪いのではない。

 この私の心遣いなのじゃ、

 そなたも一目でおわかりのはずじゃが、

 これは大臣葬の時用いる無文の太刀じゃ。

 清盛公に万一の時があったら、

 この重盛が着用に及ぶつもりで、持っていた物じゃ。

 今、入道殿に先立つ身の私としては不必要な品、

 これをそなたに譲ろうと思うのじゃよ」

人生の宿命を観じとった父重盛の言葉に、

維盛は返す言葉もなく涙ぐんでいた。

 このことがあってから、熊野詣でがあり、

重盛は間もなく帰らぬ人となったのである。

🌃🎼Memory of stars written by ハシマミ

 

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