まだたいして長い月日がたったわけではないが、
確答も得ないうちに不結婚月の五月にさえなったと恨んでおいでになって、
ただもう少し近くへ伺うことをお許しくだすったら、
その機会に私の思い悩んでいる心を直接お洩《も》らしして、
それによってせめて慰みたいと思います。
こんなことをお書きになった手紙を源氏は読んで、
「そうすればいいでしょう。
宮のような風流男のする恋は、近づかせてみるだけの価値はあるでしょう。
絶対にいけないなどとは言わないほうがよい。
お返事を時々おあげなさいよ」
と源氏は言って文章をこう書けとも教えるのであったが、
何重にも重なる不快というようなものを感じて、
気分が悪いから書かれないと玉鬘は言った。
こちらの女房には貴族出の優秀なような者もあまりないのである。
ただ母君の叔父《おじ》の宰相の役を勤めていた人の娘で
怜悧な女が不幸な境遇にいたのを捜し出して迎えた宰相の君というのは、
字などもきれいに書き、落ち着いた後見役も勤められる人であったから、
玉鬘が時々やむをえぬ男の手紙に返しをする代筆をさせていた。
その人を源氏は呼んで、口授して宮へのお返事を書かせた。
聞いていて玉鬘が何と言うかを源氏は聞きたかったのである。
姫君は源氏に恋をささやかれた時から、
兵部卿の宮などの情をこめてお送りになる手紙などを、
少し興味を持ってながめることがあった。
心がそのほうへ動いて行くというのではなしに、
源氏の恋からのがれるためには、
兵部卿の宮に好意を持つふうを装うのも一つの方法であると思うのである。
この人にも技巧的な考えが出るものである。
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