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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記14 第1巻 大きな御手⑥】帝の笛に、京極殿の灯は更けていた。古例の曲を吹き終って、「ふつつかなお聞え上げを」と、御父の法皇に一礼し御座へ返った。夢幻から醒めたような息の白さが灯を霞める。

 みかどの笛に、京極殿の灯は更《ふ》けていた。

みかどは、古例の曲を吹き終って、

「ふつつかなお聞え上げを」

と、御父の法皇に一礼して御座へ返った。

ほっと夢幻から醒めたような息の白さが灯を霞める。

女房たちの座からは、

ふと、みかどの方へ笑みを流した花の顔が多い。

今を時めく寵妃とたれ知らぬはない

阿野 廉子《やすこ》などの艶姿《あですがた》であった。

 女房の座には、その廉子のほか、

さきの妃《きさき》為子の妹|小大納言《こだいなごん》の君、

帥《そち》ノ典侍《すけ》、少将ノ内侍、尾張ノ内侍。

——端には、夏引《なつびき》、今まいり、

青柳などとよぶ雑仕《ぞうし》までが、

こぼるる花かごのようにいたのである。

 御笛の間、

笛の歌口におん眼をふさいで吹きすましていた、

帝を仰ぎ見ながら、胸それぞれな彼女たちが、

どんな恋情や喘《あえ》なさを、

そのおん横顔へ寄せ合っていたかは、

われに返った後の彼女らの吐息にもよくわかる。

 さて、ここでまた御酒一興。

 次いで、

くだけた“お遊び”が始まる。

つまり公卿たちの催馬楽《さいばら》(歌謡)や管絃だった。

 中宮ノ大夫《たゆう》実衡《さねひら》の琵琶、

大宮ノ大納言の笙《しょう》、光忠宰相のひちりき、

中将|公泰《きんやす》の和琴《わごん》、

また笛は右大将|兼季《かねすえ》、

拍子は左大臣実泰。

 ——かくて、つきぬ御遊《ぎょゆう》の後、

お帰りとなったのは、

夜もほの明けていた頃だった。

 還御は雪の中。

 やがて、

夜どおし陣ノ内(警固区域)に立武者していた滝口や

六波羅の人数がくずれ去って散るころは、

陽もギラギラと淡雪の道は泥に解《と》けだしていた。

「いかがでした、若殿」

「昨夜か」

「されば、お望みのことは」

「む。院の舎人《とねり》に物をくれて頼《たの》うだら、

中門の遣《や》り水《みず》の裾の木立に忍ばせてくれた程に」

「では、上《うえ》(天皇)のお姿を、

まざと御覧《ごろう》ぜられましたな」

「いや、雪さえ降るに、御簾《ぎょれん》の内、

明《あき》らけくはなかったが、

笛の座につかれたみ姿の線、おのずからな御威容、

さすがはと拝せられ、

世上、しきりに新帝の英邁《えいまい》を沙汰するのも、

道理よと、うなずかれた」

「それは、よいお国みやげ。さようにお望みもかのうた上は」

「オ。伯父上との約束。

 いちど六波羅のやしきに戻って、支度をあらため、

 すぐにも都を立ち去ろうよ」

夜来の警固武者のなかに立ち交じっていた

足利又太郎と右馬介の主従であった。

🌼🎼きらめく時の中で written by のる

 

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