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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

悲しみの更衣の母君【源氏物語 5 第一帖 桐壺5】悲嘆にくれる母君、帝の使者の命婦 もらい泣き。帝の思いやりに感涙するも 悩み多い母君

「娘を死なせました母親が

 よくも生きていられたものというように、

 運命がただ恨めしゅうございますのに、

 こうしたお使いが荒《あば》ら屋へおいでくださると

 またいっそう自分が恥ずかしくてなりません」

と言って、

実際堪えられないだろうと思われるほど泣く。

「こちらへ上がりますと、

 またいっそうお気の毒になりまして、

 魂も消えるようでございますと、

 先日 典侍《ないしのすけ》は

 陛下へ申し上げていらっしゃいましたが、

 私のようなあさはかな人間でも

 ほんとうに悲しさが身にしみます」

と言ってから、

しばらくして命婦は帝の仰せを伝えた。

 

「当分夢ではないであろうかというようにばかり思われましたが、

 ようやく落ち着くとともに、

 どうしようもない悲しみを感じるようになりました。

 こんな時はどうすればよいのか、

 せめて話し合う人があればいいのですがそれもありません。

 目だたぬようにして時々御所へ来られてはどうですか。

 若宮を長く見ずにいて気がかりでならないし、

 また若宮も悲しんでおられる人ばかりの中にいてかわいそうですから、

 彼を早く宮中へ入れることにして、

 あなたもいっしょにおいでなさい」 

 

「こういうお言葉ですが、

 涙にむせ返っておいでになって、

 しかも人に弱さを見せまいと

 御遠慮をなさらないでもない御様子がお気の毒で、

 ただおおよそだけを承っただけでまいりました」

と言って、

また帝のお言《こと》づてのほかの御消息を渡した。

「涙でこのごろは目も暗くなっておりますが、

 過分なかたじけない仰せを光明にいたしまして」

未亡人はお文《ふみ》を拝見するのであった。

時がたてば少しは寂しさも紛れるであろうかと、

そんなことを頼みにして日を送っていても、

日がたてばたつほど悲しみの深くなるのは困ったことである。

 

どうしているかとばかり思いやっている小児《こども》も、

そろった両親に育てられる幸福を失ったものであるから、

子を失ったあなたに、

せめてその子の代わりとして面倒を見てやってくれることを頼む。

などこまごまと書いておありになった。

宮城野《みやぎの》の露吹き結ぶ風の音《おと》

 小萩《こはぎ》が上を思ひこそやれ

 という御歌もあったが、

未亡人はわき出す涙が妨げて明らかには拝見することができなかった。

 

「長生きをするからこうした悲しい目にもあうのだと、

 それが世間の人の前に

 私をきまり悪くさせることなのでございますから、

 まして御所へ時々上がることなどは思いもよらぬことでございます。

 もったいない仰せを伺っているのですが、

 私が伺候いたしますことは

 今後も実行はできないでございましょう。

 若宮様は、

 やはり御父子の情というものが本能にありますものと見えて、

 御所へ早くおはいりになりたい御様子をお見せになりますから、

 私はごもっともだとおかわいそうに思っておりますということなどは、

 表向きの奏上でなしに何かのおついでに申し上げてくださいませ。

 良人《おっと》も早く亡くしますし、

 娘も死なせてしまいましたような不幸ずくめの私が

 御いっしょにおりますことは、

 若宮のために縁起のよろしくないことと恐れ入っております」

などと言った。

そのうち若宮ももうお寝《やす》みになった。

 

「またお目ざめになりますのをお待ちして、

 若宮にお目にかかりまして、

 くわしく御様子も陛下へ御報告したいのでございますが、

 使いの私の帰りますのを

 お待ちかねでもいらっしゃいますでしょうから、

 それではあまりおそくなるでございましょう」

と言って命婦は帰りを急いだ。

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