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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

【私本太平記 2 第1巻 下天地蔵②〈げてんじぞう〉】🍶顎の強い線や、長すぎるほど長い眉毛、大きな鼻梁がどこかのんびり間のびしている所など、西の顔でもなし、京顔でもない。坂東者に多い特有な骨柄なのだ。

「ああ、よいここちだった。

 右馬介、よほど長く眠ったのか、わしは」

又太郎は伸びをした。

その手が、ついでに、曲がっていた烏帽子を直した。

やっと現《うつつ》に返った眼でもある。

 その眼もとには、人をひき込まずにいない何かがあった。

魔魅《まみ》の眸にもみえるし、

慈悲心の深い人ならではの物にもみえる。

どっちとも、ふと判別のつきかねる理由は、

ほかの部分の、

いかつい容貌《かおだち》のせいかもしれない。

 骨太なわりには、痩肉《そうにく》の方である。

顎《あぎと》のつよい線や、

長すぎるほど長い眉毛だの、大きな鼻梁《びりょう》が、

どこか暢《のん》びり間のびしているところなど、

これは西の顔でもなし、京顔でもない。

坂東者《ばんどうもの》に多い特有な骨柄《こつがら》なのだ。

それに、幼いときの疱瘡《ほうそう》のあとが、

浅黒い地肌に妙な白ッぽさを沈めており、

これも女子には好かれそうもない損の一つになっている。

 けれど今、従者の一色右馬介にゆり起されて、

無言でニッと見せた羞恥《はにか》み笑いや、

大どかな風貌の魅力さといったらない。

きっとこの郎党は、この若いおあるじのためには、

どんな献身も誓っているのではないかと思われる。

 とにかく、醜男《ぶおとこ》の方ではあるが

由緒《よし》ある家の子息ではあろう。

佩《は》いている太刀なども、

こんな小酒屋の客には見ぬ見事な物と、

亭主もさっきから、眼をみはっていた様子だった。

「されば、お眠りはつかのまでしたが、

 昼、六波羅を出たばかり。

 さだめし、上杉殿のお内でも、この深夜まで、

 どこを何して歩いてぞと、お案じのことに相違ございませぬで」

右馬介の分別顔を、

一方は屈託もなく笑い消した。

「ばかな、そんな心配をだれがするものかよ。

 こたびの上京こそは、せっかく、よい見学として、

 諸所、くまなく見て帰れとは、

 国元の父上のみならず、六波羅の伯父上も、

 くどいほど申されたことだ。

 まして、右馬介も付いておることと」

「その儀は、とく心得ておりまするが、

 程なく元旦にもなりますことゆえ」

「そうだ、除夜だなあ。

 ことしの除夜の鐘を、都で聞こうとは思わなんだぞ。

 明くれば、又太郎も十八歳。

 右馬介、おまえとは幾つちがいだっけな」

「ちょうど、十歳上に相成ります」

「十の違いか。わしがその年になるまでには、

 きっともう一度、都へ上《のぼ》る日があろうぞ。

 鎌倉のありかたと言い、眼に見た都のさまと言い、

 これがこのままの世でいるわけはない。

 おやじ、もう一|壺《こ》、酒を持ってまいれ」

「や。そのように、お過ごしなされては」

「なぜか今夜は、腸《はらわた》がわしへ歌うのだ。

 飲むべき夜なれと、腸が申す。

 まあ、そういうなよ右馬介」

分別は、こちら以上にあるお人である。

きかないご気性である点も、日頃の練武修学、

すべてにおいてなのだから、

かくなってはお守役の右馬介も、

黙って控えてしまうしかない。

 と、そのとき、

まるで木枯しでも吹きこんで来たように、

この小酒屋の軒ばから、

「オオ。ここはまだ開《あ》いていたぞ。

 酒だ、酒だ。おやじ、それに何ぞ温い物でもないか」

と、凄まじい人々の吐く白い息が、

どやどやと、土間いっぱいに込み入って来た。

たちどころに、

土間は小酒屋らしい混雑と雑言《ぞうごん》で、埋まった。

🍶🎼a dancer under the night sky  written by のる

 

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