「春鶯囀《しゅんおうてん》」が舞われている時、
昔の桜花の宴の日のことを院の帝はお思い出しになって、
「もうあんなおもしろいことは見られないと思う」
と源氏へ仰せられたが、
源氏はそのお言葉から青春時代の恋愛三昧《ざんまい》を
忍んで物哀れな気分になった。
源氏は院へ杯を参らせて歌った。
鶯《うぐひす》のさへづる春は昔にてむつれし花のかげぞ変はれる
院は、
九重を霞《かすみ》へだつる住処《すみか》にも春と告げくる鶯の声
とお答えになった。
太宰帥《だざいのそつ》の宮といわれた方は
兵部卿《ひょうぶきょう》になっておいでになるのであるが、
陛下へ杯を献じた。
いにしへを吹き伝へたる笛竹にさへづる鳥の音《ね》さへ変はらぬ
この歌を奏上した宮の御様子がことにりっぱであった。
帝は杯をお取りになって、
鶯の昔を恋ひて囀《さへづ》るは木《こ》づたふ花の色やあせたる
と仰せになるのが重々しく気高《けだか》かった。
この行幸は御家庭的なお催しで、
儀式ばったことでなかったせいなのか、
官人一同が詞歌を詠進したのではなかったのか
その日の歌はこれだけより書き置かれていない。
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