🙇信連を信達と間違えております。信連合戦が正しいです🙇
御所の三条大路に面した門、
高倉通りへの門もすべて開け放して、
信連一人悠然と敵を待っていた。
この夜の信連の装束は、
萌黄匂《もえぎにおい》の腹巻をつけ、
上には薄青の狩衣《かりぎぬ》、
腰には衛府《えふ》の太刀。
やがて午前零時、騎馬の音が門外に近づいた。
源大夫判官兼綱と、出羽判官光長の率いる三百余騎である。
すでに父頼政の意を体している源大夫判官は、
はるか門外にひかえて様子をうかがった。
蹄《ひづめ》の音高らかに門内に乗り入れたのは出羽判官光長、
前庭に控えると、
静まり返った御所の隅にまで轟くばかりの大音声をあげた。
「宮のご謀叛はすでに露顕つかまつった。
土佐の畑《はた》へお流し申さんがため、
別当の命を受けて役人参上、直ちに出させ給え」
声に応じて広縁に姿を現わしたのは信連である。
「宮はただいまご不在じゃ、
したがってここは御所ではござらぬ。
宮はご参拝中でいられる。
夜おそく大声をあげられても迷惑じゃ。
一体何事かな、落着かれて事の子細を申されてみい」
落ちつきはらった信連の言葉に、光長は逆上した。
そして前に増す大声をあげた。
「いうな、この御所でなくてどこに宮が行かれるか。
いないというか、さがしてみしょう。
下郎ども、御所へ入ってぬかりなく探せい」
「下郎ども、ものをわきまえぬか。
馬に乗ったまま門から入るさえ無礼なことじゃ。
あまつさえ下郎が御所内を捜すとはなんたること。
入るつもりか、
長兵衛尉長谷部信連が目に入らぬのか。
近寄って怪我をするなよ」
空にはすでに雲が切れて、月が輝いていた。
広縁に身構えて不敵に立ちはだかる信連の姿に、
役人たちは一瞬声もなくひるんだ様子である。
しばし睨み合いのつづくかともみえたが、
この時、つつっと走り出たとみるや、
鞘《さや》走らせた大太刀をきらめかせて広縁に飛び、
信連目がけて斬りつけた男がいた。
検非違使庁の下郎で金武《かなたけ》という者、
かねて大力の名をとっていた男である。
金武の振舞いに、
同じ仲間十四、五人も一斉に打物とって、どっと信連を襲った。
一歩すざった信連は左手で狩衣の帯紐を一気に引き捨てた。
その右手には抜かれた太刀があった。
衛府の太刀は装飾もかねるので、
一体が華奢《きゃしゃ》な作りだが、
信連のは、
かねてから事あるべきを期して入念に鍛えさせたもの、
野戦の用にも耐える業物である。
下郎たちの振う大太刀、大長刀に信連の太刀が交叉した。
力に任せた大長刀が振り下せば空を斬り、
振り上げた大太刀の相手の胸を信連の太刀が襲った。
軽やかな身のさばきから必殺の刃がおどり出てくる。
入り乱れて打ち合ううちに、
斬り立てられた役人がちりぢりに庭へ追い落された。
嵐に木の葉が散るようであったといわれる。
🍂🎼虚無のイドラ written by shimtone
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