五月十五夜の月に照らされた御所は明るかった。
敵も味方も戦いやすい条件ではあったが、
敵は不案内、
信連は近よるものを廻廊に誘い寄せては
一刀のもとに袈裟《けさ》がけに斬り、
壁に何時しか追いつめては胸を刺した。
「宣旨の使いだぞ、手向うのか」
と信連を持て余した役人どもがおめいた。
「宣旨とは何じゃ」
と嘲笑《あざわら》うそのひまにも、信連は太刀を振った。
入念の作りとはいえ、
彼の太刀は衛府作りの華奢なものである。
激しい打合いに刀身が曲れば、咄嗟に手で直し、
それでも及ばぬ時は足で刀身を正しながら、
縦横に白刃を躍らせた。
幾多の合戦で身につけた信連の太刀捌《さば》きは水際立ち、
彼の刃に伏した者は忽ち十四、五人を数えた。
倒された仲間の血が彼らを奮起させたのか、
新手は死物狂いで大長刀を打ち振りながら立ち向って来る。
ひと声叫んだ横なぎの一撃を、
信連が応と受け止めた時、
鋼がなったとみるや、太刀の切先三寸が折れ飛んだ。
飛びすざった信連にしたりと追手が迫る。
太刀を捨てた彼は、
もはやこれまでと切腹を決意した。
鞘巻《さやまき》を逆手に握ろうと腰間を探ったが、
しかし斬合いのうちに落したのであろう、
鞘巻は腰になかった。
素手の信連は襲いかかる敵の刃の下に身を沈めるや、
一気に庭に降り、
高倉通りに面した小門を目ざして大手をひろげて駆け出した。
必死の形相で通りへ躍り出ようとする信連の横合いから、
大長刀が振られた。
瞬間、気合とともに地をはねた信連は刃をかわそうとした。
しかし長刀の方が速かった。
刃は信連の股を縫った。
どうと地に転がった信連の上に役人たちが群がり、
彼は生捕りにされたのであった。
🍃🎼動乱の予感 written byHeitaro Ashibe
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