「維《い》あたれる歳次《さいじ》、
治承《じしょう》元年|丁《ひのと》の酉《とり》、
月の並びは十月《とつき》二月《ふたつき》、
日の数、三百五十余カ日、
吉日|良辰《りょうしん》を選んで、かけまくも、
かたじけなく、霊顕は日本一なる熊野《ゆや》三所権現、
飛竜大薩《ひりゅうだいさった》の教令《きょうりょう》のご神前に、
信心の大施主《せしゅ》、少将藤原成経、
ならびに沙弥性照《しゃみしょうしょう》、
一心清浄の誠をいたし、
三業一致《さんごういっち》の志をぬきんで、
謹しんで、敬い申す。
それ、熊野本宮の阿弥陀如来は、済度苦界の教主、
法身《ほうしん》、報身《ほうしん》、
応身《おうしん》の三身を具《そな》えたる仏なり。
或は早玉宮《はやたまぐう》本地《ほんち》の薬師如来は
衆病悉除《しゅびょうしつじょ》の如来なり。
或は、結宮の本地薬師如来は衆生救済の仏等覚の菩薩なり。
熊野第四宮十一面観音は娑婆世界、
苦を救い無畏《むい》を施す仏にして、頭上の仏面を現して、
衆生の所願をみて給えり。
是によって上一人《かみいちにん》より、下万民に至るまで、
或は現世安穏のため、或は、後生善処のため、
朝に浄水を結んで煩悩《ぼんのう》の垢をすすぎ、
夕べに深山に向って宝号を称うるに、感応なき事なし、
峨々たる嶺の高きをば、神徳の高きにたとえ、
嶮々たる谷の深きをば、仏の誓の深きになぞらえて、
雲を分けてのぼり、露をしのいで下る。
ここに、菩薩の利益《りやく》を頼まずば、
いかで嶮難の路を歩まん。権現の徳を仰がずんば、
何ぞ幽遠の境にましまさん。
依て証誠大権現《しょうじょうだいごんげん》、
飛竜大薩《ひりゅうだいさった》、
青蓮《せいれん》慈悲《じひ》のまなじりを相並べ、
さおしかの御身をふりたて、
我らが無二の誠心を知見《ちけん》し、
一つ一つの願事きき入れ給え。
結《むすぶ》、早玉《はやたま》の両所権現、
各々その機に従って有縁《うえん》の衆生を導き、
無縁の群類を救わんため七宝に飾られたる極楽の光を捨て、
六道三有《ろくどうさんう》の煩悩の塵にまじわり給え。
故に定業《じょうごう》を転じ、長寿を求め、
長寿を得るため、礼拝袖を連ね、
幣帛《へいはく》礼奠《れいてん》を捧ぐる暇なし。忍
辱《にんにく》の衣を重ね、覚道《かくどう》の花を捧げて、
神殿の床を動じ、信心の心池水の如く澄ませたり。
神明納受し給わば、願い事何ぞ成就せざらん。
願わくは、十二所権現、左遷の愁いを休めて、
帰洛の本懐をとげさせ給え」
🪷🎼#東洋の神々 written by #alaki paca
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