音楽の合奏を侍臣たちにさせておいでになる時に、
帝は尚侍へ、
「あの人がいないことは寂しいことだ。
私でもそう思うのだから、
ほかにはもっと痛切にそう思われる人があるだろう。
何の上にも光というものがなくなった気がする」
と仰せられるのであった。
それからまた、
「院の御遺言にそむいてしまった。
私は死んだあとで罰せられるに違いない」
と涙ぐみながらお言いになるのを聞いて、
尚侍は泣かずにいられなかった。
「人生はつまらないものだという気がしてきて、
それとともに
もう決して長くは生きていられないように思われる。
私がなくなってしまった時、
あなたはどう思いますか、
旅へ人の行った時の別れ以上に
悲しんでくれないでは私は失望する。
生きている限り愛し合おうという約束をして
満足している人たちに、
私のあなたを思う愛の深さはわからないだろう。
私は来世に行ってまであなたと愛し合いたいのだ」
となつかしい調子で仰せられる、
それにはお心の底から
あふれるような愛が示されていることであったから、
尚侍の涙はほろほろとこぼれた。
「そら、涙が落ちる、どちらのために」
と帝はお言いになった。
【源氏物語 第十二帖 須磨(すま)】
朧月夜との仲が発覚し、追いつめられた光源氏は
後見する東宮に累が及ばないよう、
自ら須磨への退去を決意する。
左大臣家を始めとする親しい人々や藤壺に暇乞いをし、
東宮や女君たちには別れの文を送り、
一人残してゆく紫の上には領地や財産をすべて託した。
須磨へ発つ直前、桐壺帝の御陵に参拝したところ、
生前の父帝の幻がはっきり目の前に現れ、
源氏は悲しみを新たにする。
須磨の侘び住まいで、
源氏は都の人々と便りを交わしたり
絵を描いたりしつつ、淋しい日々を送る。
つれづれの物語に明石の君の噂を聞き、
また都から頭中将がはるばる訪ねてきて、
一時の再会を喜び合った。
やがて三月上巳の日、
海辺で祓えを執り行った矢先に
恐ろしい嵐が須磨一帯を襲い、
源氏一行は皆恐怖におののいた。
💠止まない雨を見ていた written by キュス 💠
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