2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧
少し安心を得た源氏は、生霊をまざまざと目で見、 御息所の言葉を聞いた時のことを思い出しながらも、 長く訪ねて行かない心苦しさを感じたり、 また今後御息所に接近してもあの醜い記憶が心にある間は、 以前の感情でその人が見られるかということは 自身の…
六条の御息所はそういう取り沙汰を聞いても 不快でならなかった。 夫人はもう危いと聞いていたのに、 どうして子供が安産できたのであろうと、 こんなことを思って、 自身が失神したようにしていた幾日かのことを、 静かに考えてみると、 着た衣服などにも祈…
病苦にもだえる声が少し静まったのは、 ちょっと楽になったのではないかと 宮様が飲み湯を持たせておよこしになった時、 その女房に抱き起こされて間もなく子が生まれた。 源氏が非常にうれしく思った時、 他の人間に移してあったのが 皆 口惜《くちお》しが…
「そんなに悲しまないでいらっしゃい。 それほど危険な状態でないと私は思う。 またたとえどうなっても 夫婦は来世でも逢えるのだからね。 御両親も親子の縁の結ばれた間柄は また特別な縁で 来世で再会ができるのだと信じていらっしゃい」 と源氏が慰めると…
几帳の垂れ絹を引き上げて源氏が中を見ると、 夫人は美しい顔をして、 そして腹部だけが盛り上がった形で寝ていた。 他人でも涙なしには見られないのを、 まして良人である源氏が見て惜しく悲しく思うのは道理である。 白い着物を着ていて、 顔色は病熱では…
まだ産期には早いように思って一家の人々が油断しているうちに 葵の君はにわかに生みの苦しみにもだえ始めた。 病気の祈祷のほかに安産の祈りも数多く始められたが、 例の執念深い一つの物怪だけはどうしても夫人から離れない。 名高い僧たちもこれほどの物…
斎宮は去年にもう御所の中へお移りになるはずであったが、 いろいろな障《さわ》りがあって、 この秋いよいよ潔斎生活の第一歩をお踏み出しになることとなった。 そしてもう九月からは嵯峨《さが》の野の宮へおはいりになるのである。 それとこれと二度ある…
ないことも悪くいうのが世間である、 ましてこの際の自分は 彼らの慢罵欲《まんばよく》を 満足させるのによい人物であろうと思うと、 御息所は名誉の傷つけられることが苦しくてならないのである。 死んだあとにこの世の人へ恨みの残った霊魂が 現われるの…
葵の君の容体はますます悪い。 六条の御息所の生霊であるとも、 その父である故人の大臣の亡霊が 憑いているとも言われる噂の聞こえて来た時、 御息所は自分自身の薄命を歎《なげ》くほかに 人を咀《のろ》う心などはないが、 物思いがつのればからだから離…
この間 うち少し癒《よ》くなっていたようでした病人に またにわかに悪い様子が見えてきて 苦しんでいるのを見ながら出られないのです。 とあるのを、 例の上手な口実である、 と見ながらも御息所は返事を書いた。 「袖《そで》濡《ぬ》るる こひぢとかつは …
物思いは御息所の病をますます昂《こう》じさせた。 斎宮をはばかって、 他の家へ行って修法などをさせていた。 源氏はそれを聞いてどんなふうに悪いのかと 哀れに思って訪ねて行った。 自邸でない人の家であったから、 人目を避けてこの人たちは逢った。 本…
左大臣家の人たちは、 源氏の愛人をだれかれと数えて、 それらしいのを求めると、 結局六条の御息所と二条の院の女は 源氏のことに愛している人であるだけ夫人に 恨みを持つことも多いわけであると、 こう言って、 物怪に言わせる言葉からその主を知ろうとし…
葵夫人は物怪《もののけ》がついたふうの容体で非常に悩んでいた。 父母たちが心配するので、 源氏もほかへ行くことが遠慮される状態なのである。 二条の院などへもほんの時々帰るだけであった。 夫婦の中は睦《むつ》まじいものではなかったが、 妻としてど…
自身の心を定めかねて、 寝てもさめても煩悶をするせいか、 次第に心がからだから離れて行き、 自身は空虚なものになっているという気分を 味わうようになって、 病気らしくなった。 源氏は初めから伊勢へ行くことに 断然不賛成であるとも言い切らずに、 「…
今日の源氏が女の同乗者を持っていて、 簾《みす》さえ上げずに来ているのをねたましく思う人が多かった。 御禊の日の端麗だった源氏が 今日はくつろいだふうに物見車の主になっている、 並んで乗っているほどの人は並み並みの女ではないはずであると こんな…
今日も町には隙間《すきま》なく車が出ていた。 馬場殿あたりで祭りの行列を見ようとするのであったが、 都合のよい場所がない。 「大官連がこの辺にはたくさん来ていて面倒な所だ」 源氏は言って、 車をやるのでなく、停《と》めるのでもなく、 躊躇《ちゅ…
きれいに装った童女たちを点見したが、 少女らしくかわいくそろえて切られた髪の裾が 紋織の派手な袴《はかま》にかかっているあたりが ことに目を惹いた。 「女王さんの髪は私が切ってあげよう」 と言った源氏も、 「あまりたくさんで困るね。 大人になった…