鏡餠《かがみもち》なども取り寄せて、
今年中の幸福を祈るのに興じ合っている所へ主人の源氏がちょっと顔を見せた。
懐中手《ふところで》をしていた者が急に居ずまいを直したりしてきまりを悪がった。
「たいへんな御祝儀なのだね、
皆それぞれ違ったことの上に祝福あれと祈っているのだろうね。
少し私に内容を洩《も》らしてくれないか、私も祝詞を述べるよ」
と微笑《ほほえ》んで言う源氏の美しい顔を見ることが
今年の春の最初の幸福であると人々は思っている。
中将の君が言う。
「御主人様がたを鏡のお餠にも祝っております。
自身たちについての祈りなどをいたすものでございません」
朝の間は参賀の人が多くて騒がしく時がたったが、
夕方前になって、
源氏が他の夫人たちへ年始の挨拶《あいさつ》を言いに出かけようとして、
念入りに身なりを整え化粧をしたのを見ることは
実際これが幸福でなくて何であろうと思われた。
「今朝《けさ》皆が鏡餠の祝詞を言い合っているのを見てうらやましかった。
奥さんには私が祝いを言ってあげよう」
少し戯れも混ぜて源氏は夫人の幸福を祝った。
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