「噂にたがわぬ名馬じゃ。馬は良い、
だが持主の惜しみ方が憎い。
それならば仲綱めが心を慰めてくれよう、
やつの名を馬に印《しる》せよ」
仲綱の焼印を押された「木の下」は
こうして宗盛の厩に収まったが、
伝え聞いた客たちが訪れて、一目名馬をと所望すると、
薄笑いを浮べた宗盛は馬をひかせると怒鳴った。
「仲綱めに鞍をおけ、引き出せい。
仲綱めに乗れい、打て、なぐれい」
無念の涙にくれたのは仲綱である。
掌中の珠《たま》を奪われたばかりか、
ことごとわが身を嘲弄される。
父の前に現れた仲綱は、
父への恨みもまじるまなざしを投げながら訴えた。
「わが身にも代えたいあの馬を、
あたら権力で奪われたのは無念に存じまする。
そのうえ、天下の笑い者になっておりますこの身、
父上、あきらめられぬ恨事にござります」
「わしも人を見る明がなかった。
お前の胸のうちは察してやる。
それにしても侍の道を知らぬ奴輩《やから》じゃ。
われらに何もできまいと思うて、
平家はかかる仕打ちも平気で行なっておるのじゃ。
これほど馬鹿にされては源氏の名もすたる。
生きながらえても、所詮《しょせん》命の無駄使いじゃ。
わしも決意した、
機会をうかがって奴らに思い知らせてやる所存じゃ。
仲綱、今はこらえてくれい」
こうして、頼政は機会を狙っていたが、
遂に高倉宮を動かして、このたびの挙に出たものである。
これは、世間の人が噂していることであったが、
信ずべきものと思われる。
🫏🎼Rainy city by #H.Lang
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