加茂の斎院は父帝の喪のために引退されたのであって、
そのかわりに式部卿《しきぶきょう》の宮の朝顔の姫君が
職をお継ぎになることになった。
伊勢へ女王が斎宮になって行かれたことはあっても、
加茂の斎院はたいてい内親王の方がお勤めになるものであったが、
相当した女御腹《にょごばら》の宮様がおいでにならなかったか、
この卜定《ぼくじょう》があったのである。
源氏は今もこの女王に恋を持っているのであるが、
結婚も不可能な神聖な職にお決まりになった事を残念に思った。
女房の中将は今もよく源氏の用を勤めたから、
手紙などは始終やっているのである。
当代における自身の不遇などは何とも思わずに、
源氏は恋を歎《なげ》いていた、
斎院と尚侍《ないしのかみ》のために。
帝は院の御遺言のとおりに源氏を愛しておいでになったが、
お若い上に、きわめてお気の弱い方でいらせられて、
母后や祖父の大臣の意志によって行なわれることを
どうあそばすこともおできにならなくて、
朝政に御不満足が多かったのである。
昔よりもいっそう恋の自由のない境遇にいても
尚侍は文によって絶えず恋をささやく源氏を持っていて
幸福感がないでもなかった。
🌸🎼月之渓 🌸 written by ilodolly
💠聴く古典文学📚少納言チャンネルは、聴く古典として動画を作っています。チャンネル登録お願いします🌷