潔斎所の空気に威圧されながらも御簾の中へ上半身だけは入れて
長押《なげし》に源氏はよりかかっているのである。
御息所が完全に源氏のものであって、
しかも情熱の度は源氏よりも高かった時代に、
源氏は慢心していた形でこの人の真価を認めようとはしなかった。
またいやな事件も起こって来た時からは、
自身の心ながらも恋を成るにまかせてあった。
それが昔のようにして語ってみると、
にわかに大きな力が源氏をとらえて御息所のほうへ引き寄せるのを
源氏は感ぜずにいられなかった。
自分はこの人が好きであったのだという認識の上に立ってみると、
二人の昔も恋しくなり、
別れたのちの寂しさも痛切に考えられて、
源氏は泣き出してしまったのである。
女は感情をあくまでもおさえていようとしながらも、
堪えられないように涙を流しているのを見ると
いよいよ源氏は心苦しくなって、
伊勢行きを思いとどまらせようとするのに身を入れて話していた。
もう月が落ちたのか、
寂しい色に変わっている空をながめながら、
自身の真実の認められないことで歎《なげ》く源氏を見ては、
御息所の積もり積もった恨めしさも消えていくことであろうと見えた。
ようやくあきらめができた今になって、
また動揺することになってはならない危険な会見を
避けていたのであるが、
予感したとおりに御息所の心はかき乱されてしまった。
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