野の宮は簡単な小柴垣《こしばがき》を
大垣にして連ねた質素な構えである。
丸木の鳥居などはさすがに神々《こうごう》しくて、
なんとなく神の奉仕者以外の者を恥ずかしく思わせた。
神官らしい男たちがあちらこちらに何人かずついて、
咳《せき》をしたり、立ち話をしたりしている様子なども、
ほかの場所に見られぬ光景であった。
篝《かがり》火を焚《た》いた番所がかすかに浮いて見えて、
全体に人少なな湿っぽい空気の感ぜられる、
こんな所に物思いのある人が幾月も暮らし続けていたのかと思うと、
源氏は恋人がいたましくてならなかった。
北の対の下の目だたない所に立って案内を申し入れると
音楽の声はやんでしまって、
若い何人もの女の衣摺《きぬず》れらしい音が聞こえた。
取り次ぎの女があとではまた変わって出て来たりしても、
自身で逢おうとしないらしいのを源氏は飽き足らず思った。
「恋しい方を訪ねて参るようなことも
感情にまかせてできた私の時代はもう過ぎてしまいまして、
どんなに世間をはばかって来ているかしれませんような私に、
同情してくださいますなら、
こんなよそよそしいお扱いはなさらないで、
逢ってくだすってお話ししたくてならないことも
聞いてくださいませんか」
とまじめに源氏が頼むと女房たちも、
「おっしゃることのほうがごもっともでございます。
お気の毒なふうにいつまでもお立たせしておきましては済みません」
ととりなす。
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