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源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

源氏物語&古典をはじめ、日常の生活に雅とユーモアと笑顔を贈ります🎁

夕顔は頭中将の恋人だった?【源氏物語 41 第4帖 夕顔 7】強く惹かれる源氏。頭中将の恋人だったのではと思う。庶民の生活の音、小さな庭の秋に情緒を感じる

 

源氏もこんなに真実を隠し続ければ、

自分も女のだれであるかを知りようがない、

今の家が仮の住居であることは間違いのないことらしいから、

どこかへ移って行ってしまった時に、

自分は呆然《ぼうぜん》とするばかりであろう。

 

行くえを失ってもあきらめがすぐつくものならよいが、

それは断然不可能である。

世間をはばかって間を空《あ》ける夜などは

堪えられない苦痛を覚えるのだと源氏は思って、

世間へはだれとも知らせないで二条の院へ迎えよう、

それを悪く言われても

自分はそうなる前生の因縁だと思うほかはない、

自分ながらもこれほど女に心を惹》かれた経験が

過去にないことを思うと、

どうしても約束事と解釈するのが至当である、

こんなふうに源氏は思って、

「あなたもその気におなりなさい。

 私は気楽な家へあなたをつれて行って夫婦生活がしたい」

こんなことを女に言い出した。

 

「でもまだあなたは私を普通には

 取り扱っていらっしゃらない方なんですから不安で」

若々しく夕顔が言う。源氏は微笑された。

 

「そう、どちらかが狐《きつね》なんだろうね。

でも欺《だま》されていらっしゃればいいじゃない」

なつかしいふうに源氏が言うと、女はその気になっていく。

 

どんな欠点があるにしても、

これほど純な女を愛せずにはいられないではないかと思った時、

源氏は初めからその疑いを持っていたが、

頭中将《とうのちゅうじょう》の常夏《とこなつ》の女

いよいよこの人らしいという考えが浮かんだ。

しかし隠しているのはわけのあることであろうからと思って、

しいて聞く気にはなれなかった。

 

感情を害した時などに

突然そむいて行ってしまうような性格はなさそうである、

自分が途絶えがちになったりした時には、

あるいはそんな態度に出るかもしれぬが、

自分ながら少し今の情熱が緩和された時に

かえって女のよさがわかるのではないかと、

それを望んでもできないのだから途絶えの起こってくるわけはない、

したがって女の気持ちを不安に思う必要はないのだと知っていた。

 

八月の十五夜であった。

明るい月光が

板屋根の隙間《すきま》だらけの家の中へさし込んで、

狭い家の中の物が源氏の目に珍しく見えた。

もう夜明けに近い時刻なのであろう。

近所の家々で

貧しい男たちが目をさまして高声で話すのが聞こえた。

「ああ寒い。

 今年こそもう商売のうまくいく自信が持てなくなった。

 地方廻りもできそうでないんだから心細いものだ。

 北隣さん、まあお聞きなさい」

などと言っているのである。

哀れなその日その日の仕事のために起き出して、

そろそろ労働を始める音なども近い所でするのを

女は恥ずかしがっていた。

気どった女であれば死ぬほどきまりの悪さを感じる場所に違いない。

 

でも夕顔はおおようにしていた。

人の恨めしさも、自分の悲しさも、

体面の保たれぬきまり悪さも、

できるだけ思ったとは見せまいとするふうで、

自分自身は貴族の子らしく、娘らしくて、

ひどい近所の会話の内容もわからぬようであるのが、

恥じ入られたりするよりも感じがよかった。

ごほごほと雷以上の恐い音をさせる唐臼《からうす》なども、

すぐ寝床のそばで鳴るように聞こえた。

源氏もやかましいとこれは思った。

けれどもこの貴公子も何から起こる音とは知らないのである。

大きなたまらぬ音響のする何かだと思っていた。

そのほかにもまだ多くの騒がしい雑音が聞こえた。

白い麻布を打つ砧《きぬた》のかすかな音もあちこちにした。

空を行く《かり》の声もした。

秋の悲哀がしみじみと感じられる。

 

庭に近い室であったから、

横の引き戸を開けて二人で外をながめるのであった。

小さい庭にしゃれた姿の竹が立っていて、

草の上の露はこんなところのも

二条の院の前栽《せんざい》のに変わらずきらきらと光っている。

虫もたくさん鳴いていた。

壁の中で鳴くといわれて人間の居場所に

最も近く鳴くものになっている蟋蟀《こおろぎ》でさえも

源氏は遠くの声だけしか聞いていなかったが、

ここではどの虫も

耳のそばへとまって鳴くような風変わりな情趣だと源氏が思うのも、

夕顔を深く愛する心が何事も悪くは思わせないのであろう。

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