2023-05-29から1日間の記事一覧
潔斎所の空気に威圧されながらも御簾の中へ上半身だけは入れて 長押《なげし》に源氏はよりかかっているのである。 御息所が完全に源氏のものであって、 しかも情熱の度は源氏よりも高かった時代に、 源氏は慢心していた形でこの人の真価を認めようとはしな…
どうすればよいかと御息所は迷った。 潔斎所《けっさいじょ》についている神官たちに どんな想像をされるかしれないことであるし、 心弱く面会を承諾することによって、 またも源氏の軽蔑を買うのではないかと 躊躇《ちゅうちょ》はされても、 どこまでも冷…
野の宮は簡単な小柴垣《こしばがき》を 大垣にして連ねた質素な構えである。 丸木の鳥居などはさすがに神々《こうごう》しくて、 なんとなく神の奉仕者以外の者を恥ずかしく思わせた。 神官らしい男たちがあちらこちらに何人かずついて、 咳《せき》をしたり…
九月七日であったから、もう斎宮の出発の日は迫っているのである。 女のほうも今はあわただしくてそうしていられないと言って来ていたが、 たびたび手紙が行くので、 最後の会見をすることなどはどうだろうと躊躇しながらも、 物越しで逢うだけにとめておけ…
【源氏物語 第十帖 賢木 さかき】 正妻の葵の上が亡くなった。 六条御息所も晴れて源氏の正妻に迎えられるだろうと世間は噂していた。 しかし 源氏は冷たくなり 縁が程遠くなった御息所。 彼女は 悩みながらも斎宮とともに伊勢に下ることにする。 いよいよ出…
いよいよ御息所に行ってしまわれることは残念で、 手紙だけは愛をこめてたびたび送っていた。 情人として逢うようなことは思いもよらないようにもう今の御息所は思っていた。 自分に逢っても恨めしく思った記憶のまだ消えない源氏は 冷静にも別れうるであろ…
【源氏物語 189 第十帖 賢木 1 】 斎宮《さいぐう》の伊勢へ下向《げこう》される日が 近づけば近づくほど御息所は心細くなるのであった。 左大臣家の源氏の夫人がなくなったあとでは、 世間も今度は源氏と御息所が公然と夫婦になるものと噂していたことであ…
宮様の挨拶を女房が取り次いで来た。 「今日だけはどうしても昔を忘れていなければならないと 辛抱しているのですが、御訪問くださいましたことでかえって その努力がむだになってしまいました」 それから、また、 「昔からこちらで作らせますお召し物も、あ…
こうして今年が暮れ、新しい春になった。 元日には院の御所へ先に伺候してから参内をして、 東宮の御殿へも参賀にまわった。 そして御所からすぐに左大臣家へ源氏は行った。 大臣は元日も家にこもっていて、 家族と故人の話をし出しては寂しがるばかりであっ…
二条の院の姫君が何人《なにびと》であるかを 世間がまだ知らないことは、 実質を疑わせることであるから、 父宮への発表を急がなければならないと源氏は思って、 裳着《もぎ》の式の用意を 自身の従属関係になっている役人たちにも命じてさせていた。 こう…
「宮仕えだって、だんだん地位が上がっていけば 悪いことは少しもないのです」 こう言って宮廷入りをしきりに促しておいでになった。 その噂の耳にはいる源氏は、 並み並みの恋愛以上のものをその人に持っていたのであるから、 残念な気もしたが、現在では紫…
若紫と新婚後は宮中へ出たり、 院へ伺候していたりする間も 絶えず源氏は可憐な妻の面影を心に浮かべていた。 恋しくてならないのである。 不思議な変化が自分の心に現われてきたと思っていた。 恋人たちの所からは 長い途絶えを恨めしがった手紙も来るので…
源氏物語183です(間違っててすみません) 人間はあさましいものである、 もう自分は一夜だって この人と別れていられようとも思えないと 源氏は思うのであった。 命ぜられた餠を惟光は わざわざ夜ふけになるのを待って持って来た。 少納言のような年配な人…
その晩は亥《い》の子の餠《もち》を食べる日であった。 不幸のあったあとの源氏に遠慮をして、たいそうにはせず、 西の対へだけ美しい檜破子詰《ひわりごづ》めの物を いろいろに作って持って来てあった。 それらを見た源氏が、南側の座敷へ来て、 そこへ惟…
源氏にそんな心のあることを 紫の君は想像もして見なかったのである。 なぜ自分はあの無法な人を信頼してきたのであろうと思うと 情けなくてならなかった。 昼ごろに源氏が来て、 「気分がお悪いって、どんなふうなのですか。 今日は碁もいっしょに打たない…
つれづれな源氏は西の対にばかりいて、 姫君と扁隠《へんかく》しの遊びなどをして日を暮らした。 相手の姫君のすぐれた芸術的な素質と、 頭のよさは源氏を多く喜ばせた。 ただ肉親のように愛撫《あいぶ》して 満足ができた過去とは違って、 愛すれば愛する…