2023-04-02から1日間の記事一覧
保曾呂倶世利《ほそろぐせり》というのは変な名の曲であるが、 それをおもしろく笛で源氏が吹くのに、 合わせる琴の弾き手は小さい人であったが音の間が違わずに弾けて、 上手になる手筋と見えるのである。 灯《ひ》を点《とも》させてから絵などをいっしょ…
源氏は二条の院の東の対《たい》に帰って、 苦しい胸を休めてから後刻になって左大臣家へ行こうと思っていた。 前の庭の植え込みの中に何木となく、 何草となく青くなっている中に、 目だつ色を作って咲いた撫子《なでしこ》を折って、 それに添える手紙を長…
新皇子拝見を望むことに対しては、 「なぜそんなにまでおっしゃるのでしょう。 自然にその日が参るのではございませんか」 と答えていたが、 無言で二人が読み合っている心が別にあった。 口で言うべきことではないから、 そのほうのことはまた言葉にしにく…
源氏の参賀の場所は数多くもなかった。 東宮、一院、それから藤壺の三条の宮へ行った。 「今日はまたことにおきれいに見えますね、 年がお行きになればなるほどごりっぱにおなりになる方なんですね」 女房たちがこうささやいている時に、 宮はわずかな几帳《…
源氏は御所から左大臣家のほうへ退出した。 例のように夫人からは 高いところから多情男を見くだしているというような よそよそしい態度をとられるのが苦しくて、 源氏は、 「せめて今年からでもあなたが暖かい心で 私を見てくれるようになったらうれしいと…