2023-03-29から1日間の記事一覧
翌朝源氏は藤壺の宮へ手紙を送った。 「どう御覧くださいましたか。 苦しい思いに心を乱しながらでした。 物思ふに 立ち舞ふべくも あらぬ身の 袖うち振りし 心知りきや 失礼をお許しください。」 とあった。 目にくらむほど美しかった昨日の舞を 無視するこ…
朱雀《すざく》院の行幸は十月の十幾日ということになっていた。 その日の歌舞の演奏は ことに選りすぐって行なわれるという評判であったから、 後宮の人々はそれが御所でなくて 陪観のできないことを残念がっていた。 帝も藤壺の女御《にょご》に お見せに…
「春になったのですからね。今日は声も少しお聞かせなさいよ、 鶯《うぐいす》よりも何よりもそれが待ち遠しかったのですよ」 と言うと、 「さへづる春は」 (百千鳥《ももちどり》囀《さへづ》る春は物ごとに 改まれどもわれぞ古《ふ》り行《ゆ》く) とだ…
三十日の夕方に宮家から贈った衣箱の中へ、 源氏が他から贈られた白い小袖の一重ね、 赤紫の織物の上衣《うわぎ》、 そのほかにも山吹色とかいろいろな物を入れたのを 命婦が持たせてよこした。 「こちらでお作りになったのがよい色じゃなかったという あて…